生化学(実験手法)

1)細胞や組織からのDNAやRNAの抽出

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細胞や組織からのDNAやRNAの抽出

 「核酸の抽出」とは、細胞や組織などからDNAやRNAを取り出してくる操作のことを言います。ここでは、核酸を抽出する際によく用いられる手法である「フェノール・クロロホルム抽出」や「エタノール沈殿」の原理について学んでいきましょう。

DNAやRNAの抽出

 DNAやRNAを抽出することは、「PCR→電気泳動」といった基本的な操作の前段階としても必要ですし、例えば、PCR検査のように「細胞や組織内に存在するあるRNAを増幅させたい」といった場合などには、RNAのみを細胞や組織から取り出してくる(これを「抽出」と言います)という操作が必要になります。

以下では、基本的な核酸(DNAやRNA)の抽出法についてご説明したいと思います。まずは基本的な流れを覚えていきましょう。

①細胞や組織を壊す

まず初めに細胞や組織を壊さなければ、DNAやRNAを含む内容物は取り出せません。

ここでは、以下の4つの試薬

Tris(pH8.0)
SDS(Sodium Dodecyl Sulfate;ドデシル硫酸ナトリウム)」
NaCl
EDTA(エチレンジアミン四酢酸)」

を含む細胞溶解バッファーを使用します。

なぜこれらの試薬を加えているかは、答えられるようにしておく必要があります。
以下にこれらの試薬を用いる理由について簡単に解説します。

Tris(pH8.0)・・・Trisはバッファー(緩衝液)として用います。DNAはpH8.0で安定ですが、RNAはpH8.0で不安定(RNAのアルカリ分解)ですので、DNA抽出の際はよく用いられます。

SDS・・・SDSは強力な界面活性剤なので、タンパク質変性作用があります。

NaCl・・・NaClは塩(えん)です。「DNAとRNAの構造」で説明していますように、DNAはリン酸基を持つことから負(マイナス)の電荷をもちます。NaClなどの塩は溶液中ではNa+とCl-に電離します。この時、正(プラス)の電荷をもつNa+はDNAの二本鎖の間に入り込んでDNAを安定化させます。

EDTA・・・EDTAは2価の金属イオンをキレートする作用があります。キレートとは、簡単に言うと金属イオンに直接結合(配位結合)して、金属イオンの活性を封じ込めることを言います。DNAは細胞内に存在するDNase(DNA分解酵素)という酵素によって分解されてしまいますが、DNaseが働くためにはMg2+などが必要になります。そのため、細胞を破砕したときに、DNAがDNaseによって分解されることを防ぐためにEDTAを加えます。

※タンパク分解酵素として、「Proteinase K(プロテイナーゼK)」を上記の細胞溶解バッファーに加えることもあります。プロテイナーゼKは、SDSなどの変性剤の存在下でも変性しないという性質をもつことからDNA抽出の際によく使用されます。

②フェノール・クロロホルム抽出

フェノール・クロロホルム抽出では、フェノールとクロロホルムを1:1の割合で混合した溶液を加えます。

フェノールはタンパク質の変性作用をもつとともに、タンパク質を不溶化させる性質をもちます。簡単にいうと、フェノールを加えることで除タンパクすることができます。フェノールを加えると、DNAを溶けている水層と、脂質などが溶けている水には溶けにくいフェノール層に分離することができます。そして、その中間層にタンパク質が集まってきますので、細胞溶解液からタンパク質・脂質を一気に除去することができます。

一方、このとき水層とフェノール層の分離をよくするのに、有機溶媒であるクロロホルムを加えています。クロロホルムは水にはほとんど溶けない性質がありますので、フェノールを水層に混入するのを防ぐことができます。

実際の操作としては、フェノール・クロロホルム液を細胞溶解液に加えて、よく撹拌した後に遠心分離することによって、上記のように水層とフェノール・クロロホルム層に分離することができます。

③クロロホルム抽出

 フェノール・クロロホルム抽出の原理を理解することができれば、この操作の意味もわかってきます。フェノールはタンパク質を除くのにとても便利なのですが、水層にフェノールが混入してしまっていると、タンパク質変性作用がありますので、後の酵素反応などに影響が出てきます。そこで、クロロホルム抽出を行うことによって、完全にフェノールを除去する必要があります。

実際の操作としては、フェノール・クロロホルム抽出によって得られた水層を新しい1.5mLチューブなどに移し、そこにクロロホルムを加えます。その後、よく撹拌した後に遠心分離することによって、水層とクロロホルム層に分離することができます。

④エタノール沈殿

 エタノール沈殿とは、簡単に言うと水に溶けているDNAなどの核酸を沈殿させる方法です。エタノール沈殿では、「エタノールは水に溶けるが、核酸を溶解しない」という性質を利用しています。

イメージとしては、エタノールが水と混ざることによって、水に溶けていたDNAがエタノールのない部分に逃れていきますが、水とエタノールの混合液しかないために行き場を失い、不溶化し沈殿してくるといった感じです。

ただしこの時、DNAはリン酸基をもち負電荷(マイナス)を帯びていますので、マイナスの電荷同士が反発し合ってなかなか沈殿してきません。そこで、DNAをうまく凝集させるためには、一価の陽イオンを含む「酢酸ナトリウム」などを加えることが多いです。

実際の操作としては、クロロホルム抽出によって得られた水層を新しい1.5mLチューブなどに移し、そこに酢酸ナトリウムを加え、2~2.5倍量の100%エタノールを加えます。その後、よく撹拌した後に、低温条件下で遠心分離することによって、DNAを凝集させ沈殿として分離することができます。

⑥洗浄(Wash)

エタノール沈殿によって得られたDNAの沈殿物(ペレットと言います)には、塩やエタノールが混入しています。そのため、これらのペレットを70-80%エタノールで洗浄(Wash)します。

実際の操作としては、エタノール沈殿した後の上清を捨て、70-80%エタノールを加えます。その後、よくペレットを剥がした後に、遠心分離します。

⑦バッファーに溶解

遠心後の上清を捨て、乾燥させます(風乾によって沈殿からWash液を除く)。その後、TE(Tris-EDTA)バッファーなどに溶解させることで、DNA抽出の完了になります。

※DNA抽出後には、Nano dropなどでDNA濃度を測定し、目的濃度のDNAに希釈した後で各種解析に用います。

RNA抽出

DNA抽出とRNA抽出の基本的な流れは同じですが、いくつか注意点がありますので、以下で確認していきましょう。

『RNAは分解されやすい』

 RNAの取り扱いにおいて最も注意しなければいけないことは、RNAが分解されないようにするということです。RNAはRNase(RNA分解酵素)によって簡単に分解されてしまいますが、このRNaseは私たちの汗や唾などに含まれています。

 一方で、このRNaseの酵素活性はフェノールなどの変性剤によっては完全に失活させることはできません。そのため、例えば実験台や実験器具にRNaseがコンタミ(コンタミネーションのこと)していると、RNAは急速に分解されてしまいます。

そこで、RNA抽出の際には、より強力なタンパク質変性剤である「グアニジンイソチオシアネート」という試薬を用います。実際には、DNA抽出の際に用いたフェノール(これもタンパク質の変性剤です)にグアニジンイソチオシアネートを入れたものでRNA抽出を行います。

※RNA抽出のときには手袋を着用し、ベラベラ喋らずに(唾を飛ばさないように)実験を行いましょう。

細胞や組織からのDNAやRNAの抽出についてはこれで以上です。
次は「2)大腸菌の形質転換について」について学んでいきましょう。

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