栄養学 生化学

3)リポタンパク質と脂質の輸送

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1.コレステロールとは

 コレステロールとは、ステロイドに分類されるステロールと呼ばれる有機化合物の一種で、下図のような3つの6員環と1つの5員環が繋がった構造をしています。

 動物では、コレステロールは生体膜を構成する脂質として、生体膜の流動性の維持に重要な役割を担っています。また、コレステロールは、胆汁酸やステロイドホルモン(ビタミンDやコルチゾールなど)の前駆体としても非常に重要な物質になっています。

 コレステロールは、ステロールの一種でありますので、C-3にヒドロキシ基をもっていますが、これ以外に極性のある基をもっていません。そのため、コレステロールは、両親媒性のグリセロリン脂質やスフィンゴ脂質よりも疎水性が強い化合物で、生体膜を構成する際には、グリセロリン脂質やスフィンゴ脂質が形成した脂質二重層の間に埋め込まれるようにして存在しています。

 ちなみに、生体膜を構成する脂質は、多い順にグリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、コレステロールとなっていますが、脂質ラフトと呼ばれる微小ドメインでは、コレステロールが多数集まっていることが知られています。

※下図は、脂質ラフト(②)の模式図になりますが、脂質ラフトでは、飽和脂肪酸(折れ曲がりがない)を主とするスフィンゴ脂質とコレステロール(黄色)が多数集まってドメインを形成しています。

引用元:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Lipid_raft_organisation_scheme.svg

2.リポタンパク質と脂質の輸送

○リポタンパク質とは

 リポタンパク質とは、アポリポタンパク質と総称されるタンパク質と脂質から構成されるミセル状の複合体のことで、血液中で脂質を運搬する働きをしています。脂質は水に溶けない、あるいは溶けにくい性質をもちますので、そのままの状態では血液中を流れることができません。そこでリポタンパク質の中に、トリアシルグリセロール(中性脂肪)やコレステロールエステルなどの疎水性の脂質を詰めて、血液中を運搬しています。

 コレステロールエステルとは、コレステロールのC-3のヒドロキシ基に脂肪酸がエステル結合したもので、トリアシルグリセロールとは、グリセリンと3分子の脂肪酸がエステル結合したものです。すなわち、脂肪酸やコレステロールはそのままの状態ではなく、コレステロールエステルやトリアシルグリセロールの形で血液中を輸送されています。ただし、脂肪酸の血液中の輸送には、リポタンパク質以外にも、血清アルブミンケトン体を介した輸送もありますので注意が必要です。

※「1)脂質の構造と性質」でも解説しましたが、リン脂質、コレステロール、トリアシルグリセロール、およびコレステロールエステルはすべて脂質に含まれます。

※ミセルとは、分子内に親水基と疎水基をもつ両親媒性の分子(リン脂質など)が、水などの中で、親水基を外に疎水基を内に向けて、複数の分子が会合体を形成したものです。

○リポタンパク質の種類

 リポタンパク質は、その密度の違いによりキロミクロンVLDL(very low density lipoprotein)、IDL(intermediate density lipoprotein)、LDL(low density lipoprotein)、HDL(high density lipoprotein)の5種類に分類されます。

 それぞれのリポタンパク質の密度は、順に「キロミクロン<VLDL<IDL<LDL<HDL」で、密度の小さいリポタンパク質ほど脂質を多く含んでいます。ちなみに、大きさは順に「キロミクロン>VLDL>IDL>LDL>HDL」となっています。

※IDLはVLDLとLDLの中間であることに注意しましょう。

 これらのリポタンパク質は、それらを構成するアポリポタンパク質にも違いがあります。アポリポタンパク質は、リポタンパク質を構成するだけでなく、LCAT(レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ)やLPL(リポタンパク質リパーゼ)などの酵素の活性を調節したり、アポリポタンパク質自身が受容体に対するリガンドとなったりします。それぞれのリポタンパク質の特徴となるアポリポタンパク質とその役割を下の表にまとめておきます。

※LCATは、コレステロールにアシル基(脂肪酸)を結合させてコレステロールエステルに変換する酵素で、HDLが細胞からコレステロールを引き抜くときに重要です。

※LPLは、トリアシルグリセロールを分解して脂肪酸を組織に供給する酵素で、キロミクロンやVLDLなどが運ぶトリアシルグリセロール由来の脂肪酸を近傍の細胞に供給するときに重要です。

※「LDLコレステロール=悪玉コレステロール、HDLコレステロール=善玉コレステロール」という言葉を聞いたことがある方も多いと思いますが、LDLやHDLの中に含まれるコレステロールは同じものであり、コレステロール自体に善悪があるということではありません後に詳しく解説しますが、HDLは細胞内に蓄積されたコレステロールを肝臓に戻す働きがありますが、LDLは逆に細胞内にコレステロールを供給する働きがあり、この供給の過程で過剰となったLDLは酸化されてしまうという点が、LDLコレステロールは悪玉コレステロール、HDLコレステロールは善玉コレステロールと呼ばれる所以になっています。

○外因性経路と内因性経路

 リポタンパク質による脂質の輸送には、食事由来の脂質を運ぶキロミクロンを介した外因性経路と肝臓で合成した脂質を運ぶVLDLを介した内因性経路の2つがあります。

○外因性経路

 「4)脂質の消化と吸収」で詳しく解説しますが、食事由来の脂質は、小腸で消化吸収された後、キロミクロンを形成してリンパ管から全身の組織に運ばれます。

 キロミクロンは、毛細血管を流れる際に、毛細血管の細胞膜上にあるリポタンパク質リパーゼ(LPL)を活性化することで、キロミクロン内のトリアシルグリセロール(中性脂肪)が脂肪酸とグリセリンに分解されます。このようにして、食事由来の脂質(ほとんどが中性脂肪)は、キロミクロンとLPLの作用によって脂肪酸として全身の組織に供給されていくわけです。

 LPLの作用を受けたキロミクロンは、だんだんと小さくなっていきます。すると、コレステロールに富んだキロミクロンレムナント(キロミクロンの残骸)となり、最終的には肝臓に発現するキロミクロンレムナント受容体によって肝臓に取り込まれます。

○内因性経路

 VLDLは、肝臓で合成されたトリアシルグリセロール(中性脂肪)やコレステロールを全身の末梢組織へと運びます。VLDLもキロミクロンと同様に、毛細血管を流れる際に、毛細血管の細胞膜上にあるリポタンパク質リパーゼ(LPL)を活性化することで、VLDL内のトリアシルグリセロールが脂肪酸とグリセリンに分解されます。このようにして、VLDL内のトリアシルグリセロールが全身の末梢組織へと運ばれますが、この過程でVLDLはIDL(VLDLからトリアシルグリセロールが減少し、コレステロールの占める割合が増加したリポタンパク質)に変化します。

 その後、IDLの大部分が肝臓の肝性トリアシルグリセロールリパーゼ(HTGL)の作用を受けてLDL(IDLよりもさらにコレステロールの占める割合が増加したリポタンパク質)へと変化されます。LDLは、コレステロールエステルに富んだリポタンパク質であり、そのアポリポタンパク質のほとんどがアポB-100になります。

 そのため、LDLは、アポB-100を認識するLDL受容体を介して末梢組織に取り込まれ、細胞にコレステロールを供給します。肝臓にもLDL受容体がありますので、残ったLDLは肝臓に取り込まれて回収されます。

 一方、コレステロールを末梢組織から肝臓へと輸送する「コレステロールの逆転送系」も存在します。小腸や肝臓で合成されたHDLは、末梢組織で発現しているABCA1(ATP binding cassette transporter A1)と呼ばれるトランスポーターを介して、細胞内のコレステロールを引き抜きます。

 HDLに取り込まれたコレステロールはLCAT(レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ)と呼ばれる酵素によってエステル化され、コレステロールに脂肪酸が結合したコレステロールエステルとしてHDL内に蓄積されていきます。このようにしてコレステロールが豊富になったHDLは、最終的に肝臓のHDL受容体を介して肝臓に回収されます。

○LDLの酸化と動脈硬化

 ここまでで、LDLは細胞にコレステロールを供給しているという面でとても重要なものであるということが分かりました。 

 では、なぜLDLコレステロールは悪玉コレステロールと言われているのでしょうか。

 その実態は、LDLがコレステロールを多量に含んでいることと酸化を受けやすいことにあります。過食や動物性食品を過剰摂取すると、細胞内のコレステロール量は増加し、これを抑えるための負のフィードバック制御によってLDL受容体が減少します。すると、LDLの血中濃度が上昇するとともに、血中滞留時間が増加してしまいますので、活性酸素などのフリーラジカルによってLDLが酸化されやすくなります。このとき、LDLのアポB-100が酸化変性してしまうと、LDLはLDL受容体によって認識されることはなくなり、常に血中に溜まっていってしまいます

 これを防ぐために、異物認識の受容体であるスカベンジャー受容体を介してマクロファージが酸化変性したLDLを異物として取り込みますが、マクロファージにはコレステロールの分解経路は存在しませんので、マクロファージ内の中にコレステロールがどんどん蓄積してしまいます。これによって、マクロファージが泡沫化すると、マクロファージは自己崩壊を起こし、血管壁へと沈着しプラークを形成します。これが動脈硬化の原因となっているわけです。

 

リポタンパク質と脂質の輸送についてはこれで以上です。
次は「4)コレステロール合成」について学んでいきましょう。

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