生化学

1)脂質の構造と性質

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 脂質は、エネルギー源や生体膜の構成要素として重要であるだけでなく、必須脂肪酸をもとにつくられるエイコサノイドなど、生理活性物質としても生体内で非常に重要です。最近では、脂肪酸そのものがリガンドとしてシグナル伝達に関与していることも知られてきています。

1.脂質とは

 脂質とは、一般的に「水に溶けない、あるいは溶けにくい有機化合物」のことをいいます。私たちヒトを含む動物は、脂質をエネルギー源として蓄えていますが、それは脂質のエネルギー密度が高い(9kcal/g)ためです。

※生体内で蓄えられる脂質や食事から摂取する脂質の大半は、トリアシルグリセロール中性脂肪)というものです。

2.脂質の分類

 脂質は、大きく単純脂質複合脂質誘導脂質の3つに分類することができます。

○単純脂質

単純脂質とは、アルコールと脂肪酸のエステルのことで、アルコールであるグリセリン3つの脂肪酸がエステル結合した「トリアシルグリセロール」が代表的な単純脂質になります。

○トリアシルグリセロール(TG)

 トリアシルグリセロールは、非常に疎水性が高い物質で、中性脂肪として体内に蓄積されていますが、必要に応じて分解されると、解糖やクエン酸回路を経てエネルギー源として利用されます。

○複合脂質

 複合脂質とは、分子中にリンや糖などを含んでいる脂質(リン脂質や糖脂質)のことで、「グリセロリン脂質」「スフィンゴ脂質」が代表的な複合脂質になります。

○グリセロリン脂質

 グリセロリン脂質は、トリアシルグリセロールと同様にグリセロール骨格をもちますが、グリセリンの代わりにグリセロール3-リン酸(グリセリンのC-3にリン酸が結合したもの)をグリセロール骨格として用いています。

 グリセロリン脂質は、生体膜に最も多く含まれている脂質として非常に重要な役割を担っています。生体膜は、リン脂質二重層によって構成されていますが、これはグリセロリン脂質が、極性の頭(リン酸基側)と長い疎水性の尾(脂肪酸側)をもつ両親媒性の分子であるという特徴をもつためです。下図の右の模式図には見覚えがある方も多いと思いますが、疎水性の尾が2つであるのは、グリセロリン脂質の脂肪酸が2つであるためです。

 最も簡単なグリセロリン脂質は、ホスファチジン酸(X=H)で、グリセロール3-リン酸のC-1とC-2に2つの脂肪酸がエステル結合したものになります。ホスファチジン酸は、存在量が少ないですが、より複雑なグリセロリン脂質(ホスファチジルコリンホスファチジルセリンなど)を合成・分解したりするときの代謝中間体となっています。

 複合脂質に含まれるリン脂質には、グリセロリン脂質とスフィンゴリン脂質がありますが、グリセロールを骨格とするものをグリセロリン脂質、スフィンゴシンを骨格とするものをスフィンゴリン脂質といいます。

※グリセロリン脂質には、この他にホスファチジルエタノールアミンホスファチジルイノシトールなどさまざまな種類があります。下図に主なリン脂質の種類と分類をまとめておきます。

○スフィンゴ脂質

 スフィンゴ脂質は、スフィンゴシンを骨格としてもつ脂質のことで、生体膜を構成する脂質の中で、グリセロリン脂質に次いで2番目に多い脂質となっています。スフィンゴ脂質には、大きくスフィンゴリン脂質スフィンゴ糖脂質の2種類があります。

 スフィンゴリン脂質としては、スフィンゴミエリン」が有名で、スフィンゴ糖脂質としては、「セレブロシド」「ガングリオシド」などがあります。

 スフィンゴシンのC-2に脂肪酸がアミド結合したものが「セラミド」になります。セラミドは、すべてのスフィンゴ脂質の前駆体として重要な物質で、セラミドを元に、スフィンゴミエリン、セレブロシド、およびガングリオシドが生合成されています。

 スフィンゴ糖脂質は、脂質に糖が含まれている構造をしているため、疎水性の部分(炭化水素鎖の部分)が生体膜に埋まって、糖鎖を生体膜上に露出させることができます。この糖鎖は、他の細胞同士の相互認識や他の化合物の認識部位などとして、さまざまな役割を果たしていると考えられています。

※ちなみに、血液型は赤血球が細胞膜表面にもつこのような糖鎖の構造の違いによって決まっています。

○脂質ラフト

 スフィンゴ脂質はコレステロールとともに、脂質ラフト」を構成する物質であることもわかってきています。脂質ラフトとは、スフィンゴ脂質コレステロールを多く含む、生体膜に存在する微小ドメインのことです。スフィンゴ脂質には、脂肪酸として飽和脂肪酸が用いられていますが、飽和脂肪酸は分子が直線状であるため、スフィンゴ脂質同士が集まると密に会合します。さらにコレステロールが入り込むことで、脂質ラフトは、程よく固い膜ドメインとして、柔軟性に富んだ脂質二重層(海)に浮かんだ「筏(ラフト)」のようであると考えられています。

 下図は、脂質ラフト(②)の模式図になります。脂質ラフトでは、飽和脂肪酸を主とするスフィンゴ脂質とコレステロール(黄色)が集まってドメインを形成していることがわかります。

引用元:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Lipid_raft_organisation_scheme.svg

※細胞膜を構成する脂質二重層は、流動モザイクモデルの提唱によって、脂質が細胞膜で常に動き回っていて、モザイク状に埋め込まれていた膜タンパク質も脂質の流れの中をランダムに動き回っていると考えられてきましたが、脂質ラフトの発見によって、膜タンパク質は脂質ラフトのような性質の異なる膜ドメイン上に、ある一定の割合で局在しているということが示唆されるようになりました。

○誘導脂質

 誘導脂質とは、脂質の加水分解によって生じる化合物のことで、「脂肪酸」「コレステロール(ステロイド)」などが誘導脂質に分類されます。

 必須脂肪酸をもとにつくられるエイコサノイドは、生理活性物質として生体内で重要な役割を担っています。エイコサノイドには、プロスタグランジントロンボキサンなどがあります。

※脂肪酸とコレステロールについては「2)必須脂肪酸とエイコサノイド」と「3)リポタンパク質と脂質の輸送で詳しく解説します。

脂質の構造と性質についてはこれで以上です。
次は「2)必須脂肪酸とエイコサノイド」について学んでいきましょう。

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2)必須脂肪酸とエイコサノイド

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