光合成の明反応とクロロフィル
前回は「1)光合成の役割」について、光合成には明反応と暗反応の2つがあることを学びました。ここでは、光合成の明反応について確認していきましょう。
1.光化学系とクロロフィル
光合成の明反応では、光をエネルギーとしてNADPHとATPを産生する反応のことでした。
この明反応は、葉緑体のチラコイド膜で行われますが、
このチラコイド膜上には、光化学系Ⅱ、シトクロムb6f複合体、光化学系Ⅰ、ATPシンターゼなどのタンパク質複合体が局在しています。
光化学系について
このうち、光化学系Ⅱと光化学系Ⅰにおいて光が吸収されて、
吸収された光が、反応中心クロロフィル(特殊ペア)を励起するエネルギー(光エネルギー)として利用されます。
※クロロフィルは、ポルフィリン環にMg2+を配位した構造をとっており、またフィトール側鎖をもつという特徴があります。
図.クロロフィルの構造
引用元:https://en.wikipedia.org/wiki/Chlorophyll
このとき、反応中心クロロフィルだけでは、光エネルギーを十分に集めることができませんので、光化学系には、集光性クロロフィルと呼ばれる光を集めるアンテナとして機能するクロロフィルが多量に存在しています。
光化学系には他にも、カロテノイドやフィコビリンなどの補助色素として知られている分子も存在しており、さまざまな波長の光をエネルギーとして吸収することが可能となっています。
ちなみに反応中心クロロフィルには、
特殊ペアと呼ばれる、光エネルギーにより励起されるとことによって電子を放出する特殊なクロロフィルの二量体が存在しており、光化学系Ⅱと光化学系Ⅰにおける特殊ペアは、それぞれP680とP700と呼ばれています。
※「励起される」とは、基底状態にある物質がエネルギーを受け取ることで、エネルギー状態の高い励起状態へと変化されることをいいます。
光化学系Ⅱの反応中心クロロフィル(P680)では、光の吸収極大が680nmにあり、光化学系Ⅰの反応中心クロロフィル(P700)では、光の吸収極大が700nmにあるということですね。
2.光化学系Ⅱ→シトクロムb6f複合体→光化学系Ⅰ
チラコイド膜上では、このように光エネルギーによって励起された反応中心クロロフィル(特殊ペア)から放出された電子(e-)が
チラコイド膜上での電子(e-)の流れ
「光化学系Ⅱ→シトクロムb6f複合体→光化学系Ⅰ」
と伝達されていくことで、最終的にこの電子(e-)がフェレドキシン-NADP+オキシドレダクターゼという酵素に渡されて、この酵素がNADP+を還元することでNADPHが生成されます。
また、電子伝達の過程でチラコイド内腔(ルーメン)に蓄積したH+をもとに、チラコイド膜を挟んだプロトン勾配(H+の濃度差)によってATPシンターゼによるATPの合成が行われます。
以下では、光合成の明反応の過程をもう少し詳しく見ていきましょう。
3.酸素発生複合体(OEC)による水の分解
光合成の明反応では、最初に光化学系Ⅱにおいて、光エネルギーによって励起された反応中心クロロフィル(特殊ペア:P680)が電子(e-)を放出することで、電子伝達が開始されます。
このとき、電子(e-)を放出することで酸化されたP680(P680+)は、再び電子(e-)を受け取ることで、再び電子を放出できる状態に戻ります。
この反応は、光エネルギーによって活性化された酸素発生複合体(OEC)によって行われており、水が分解されて生じた電子(e-)が利用されます。
4.電子(e-)を運ぶ「プラストキノン」「プラストシアニン」「フェレドキシン」
光合成の明反応では、「光化学系Ⅱ→シトクロムb6f複合体→光化学系Ⅰ」へと電子(e-)が伝達されますが、実際にはこの過程には電子の受け渡しを仲介するさまざまな分子が関与しています。
特に覚えておきたい明反応における電子伝達の流れを以下に示します。
ポイント
PSⅡ(P680)→プラストキノン→シトクロムb6f複合体→プラストシアニン→PSⅠ(P700)→フェレドキシン→フェレドキシン-NADP+オキシドレダクターゼ
※酸化還元電位をもとにした二段階の光励起反応を含む、電子伝達の流れを示した図は「Zスキーム」と呼ばれています。
これらの電子(e-)を運ぶ分子について確認していきましょう。
光化学系Ⅱ(PSⅡ)→プラストキノン
光化学系Ⅱにおいて、反応中心クロロフィル(特殊ペア:P680)から放出された電子(e-)は、まずプラストキノンへと受け渡されます。
プラストキノン→シトクロムb6f複合体
次に、プラストキノンから放出された電子(e-)が、シトクロムb6f複合体へと受け渡されます。
シトクロムb6f複合体→プラストシアニン
その後、シトクロムb6f複合体から放出された電子(e-)が、プラストシアニン(銅タンパク質)へと受け渡されます。
プラストシアニン→光化学系Ⅰ(PSⅠ)
さらに、プラストシアニンから放出された電子(e-)が、光化学系Ⅱにおいて、反応中心クロロフィル(特殊ペア:P700)へと受け渡されます。
光化学系Ⅰ(PSⅠ)→フェレドキシン
光化学系Ⅱにおいても、光化学系Ⅰと同様に、吸収された光が、反応中心クロロフィル(特殊ペア)を励起するエネルギーとして利用されます。
そして励起された反応中心クロロフィル(特殊ペア:P700)から放出された電子(e-)が、フェレドキシン(Fe-Sタンパク質)へと受け渡されます。
フェレドキシン→フェレドキシン-NADP+オキシドレダクターゼ
最後に、フェレドキシンから放出された電子(e-)が、フェレドキシン-NADP+オキシドレダクターゼという酵素に渡されて、この酵素がNADP+を還元することでNADPHが生成されます。
4.チラコイド内腔(ルーメン)におけるH+と光リン酸化
光合成の明反応では、光化学系Ⅱにおける酸素発生複合体(OEC)によって行われる2分子の水(H2O)が分解される過程で、1分子の酸素(O2)が生じますが、このとき、4分子のH+も生じます。また、このときシトクロムb6f複合体で8分子のH+がチラコイド内腔に取り込まれます。
そのため、チラコイド膜を挟んだプロトン勾配が生じて、ATPシンターゼ(ATP合成酵素)によって、12分子のH+から4分子のATPが合成されます(光リン酸化)。
※3分子のH+から1分子のATPが合成されます。
光化学系と明反応についてはこれで以上です。
次は「3)カルビン回路(CO2固定)と暗反応」について学んでいきましょう。
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