免疫細胞染色とは?:【免疫細胞染色のプロトコル】
今回は、免疫細胞染色について、初心者の方でも理解できるように解説していきます。
免疫細胞染色とは?
免疫細胞染色とは、細胞内や細胞表面に存在する特定のタンパク質を「抗体抗原反応」を利用して可視化する方法です。
目的のタンパク質に特異的に結合する抗体を使って、抗原の細胞内局在を顕微鏡下で観察することができます。
この技術を使うことで、目的のタンパク質の発現量や細胞内局在を調べることができます。
それでは、実際に目的のタンパク質の発現量や細胞内局在を調べる場合を考えていきましょう。
必要なもの(準備するもの)
- サンプル:細胞
- 抗体:一次抗体と二次抗体。
- 一次抗体:目的のタンパク質に直接結合する抗体。
- 二次抗体:一次抗体に結合し、蛍光色素などで標識した抗体(必要な場合)。
- 試薬:
- PBST(Phsophate Buffered Saline with Tween 20):非イオン性界面活性剤 Tween 20を含むPBS。
- ブロッキング剤:非特異的な結合を防ぐ。
- 固定液:パラフォルムアルデヒド(PFA)など。
- 透過化試薬(必要なら):Triton X-100など。
免疫細胞染色の流れ(免疫細胞染色のプロトコル)
ステップ1:細胞の固定
固定液(例えば4% パラフォルムアルデヒド)を使って、細胞をそのままの状態で固定します。固定することで、細胞の構造をそのままの状態に保ちます。
- 方法:
- 必要に応じて、細胞をPBSTなどでWashします。
- 固定液(4% パラフォルムアルデヒドなど)を加え、10~15分間室温でインキュベート。
- 再度、PBSTなどでWashします。
ステップ2:透過処理
細胞内のタンパク質を染色する場合は、透過処理が必要です。細胞膜を少し壊して、抗体が中に入れるようにします。
- 方法:
- Triton X-100(0.1%程度)を含むPBSを使用。
- 5~10分間室温で処理。
ステップ3:ブロッキング
ブロッキングは、抗体が非特異的に結合しないようにする重要な工程です(透過処理と同時にすることも多いです)。
- 方法:
- 二次抗体を作った宿主の血清を含むPBSで細胞を20分〜1時間ほどインキュベート。
ステップ4:一次抗体の添加
目的のタンパク質に結合する一次抗体を加えます。
- 方法:
- 一次抗体を適切な濃度(1:100や1:200など)に希釈。
- 細胞に抗体を加え、4℃で一晩インキュベート(または室温で1~2時間)。
- PBSTで3回などでWashします。
ステップ5:二次抗体の添加(必要な場合)
一次抗体が蛍光標識されていない場合、蛍光標識されている二次抗体を使って可視化します。
- 方法:
- 二次抗体を適切な濃度に希釈。
- 細胞に加え、30~60分間室温でインキュベート。
- PBSTで3回などでWashします。
ステップ6:観察
染色が終わった細胞を封入剤で処理した後、顕微鏡で観察します。
- 方法:
- 封入剤を添加。
- カバーガラスを被せる。
- 蛍光顕微鏡などで観察。
注意点
- 抗体の選び方:目的のタンパク質に特異的な抗体を選ぶのが最重要です。
- 対照実験:ネガティブコントロールを用意して、非特異的な結合がないか確認しましょう。
- 丁寧な洗浄:抗体のバックグラウンドを減らすために、洗浄はしっかりと!
免疫細胞染色プロトコル:追加のポイントとコツ
次に、免疫細胞染色のポイントやコツをお伝えします。
二次抗体を使う場合の注意点
二次抗体を使用する際に重要なのは、「一次抗体との種差(species specificity)」を確認することです。
例えば、一次抗体がマウス由来の場合、二次抗体は"抗マウスIgG"(anti-mouse IgG)である必要があります。
Tips: 同じ種の細胞や組織を使うときは、二次抗体の選択に注意しましょう。
複数の抗体を使いたい場合
複数の抗体を使う場合は、それぞれの抗体が異なる種由来であることを確認してください。例えば、
- 一次抗体1: マウス由来
- 一次抗体2: ウサギ由来
この場合、
- 二次抗体1: 抗マウスIgG
- 二次抗体2: 抗ウサギIgG
のように使い分けることで、交差反応を防ぐことができます。
染色の最適化のコツ
抗体濃度を工夫する
抗体濃度が濃すぎるとバックグラウンドが増え、薄すぎるとシグナルが弱くなります。事前に希釈系列を作って、最適な濃度を決めるのがポイントです。
実験例: 1:100, 1:200, 1:500で比較して、最もシグナルが強くて背景が低い条件を選びましょう。
インキュベーション時間を調整
- 室温で短時間(1–2時間)のインキュベーション。
- 4℃で一晩インキュベーション。
抗体や実験条件によって最適な時間は異なるので、試してみてください。
データの質を高める方法
コントロールの設定
良いデータを得るためには、コントロールが必須です。
- ネガティブコントロール: 抗体を加えずに染色する。
- アイソタイプコントロール: 同じアイソタイプ(例: IgG1)の抗体を使用する。
- 陽性コントロール: よく発現している細胞や組織を使う。
注意: これらのコントロールを実施することで、信頼性の高いデータが得られます!
実験失敗時のチェックポイント
バックグラウンドが高い場合
- ブロッキングが十分か確認。
- 洗浄回数を増やす。
- 抗体濃度を下げてみる。
シグナルが弱い場合
- 抗体濃度を上げてみる。
- インキュベーション時間を延ばす。
- 二次抗体を変更してみる(より強い蛍光を持つものなど)。
細胞が壊れてしまう場合
- 固定液の種類や時間を調整(剥がれやすい細胞の場合、培地を加えて固定液を希釈することを検討してみても良いかもしれません)。
- 透過化処理を短縮。
免疫細胞染色とは?【免疫細胞染色のプロトコル】についてはこれで以上です。
次は「1)クロマチン免疫沈降(ChIP)の原理と概要」について学んでいきましょう。
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