siRNAを用いた遺伝子のノックダウン実験
遺伝子の発現を抑制して遺伝子の機能を解析する実験手法として、「siRNA(small interfering RNA)」を用いた遺伝子のノックダウンが広く利用されています。
今回は、siRNAを用いた遺伝子のノックダウンの基本原理から実験の流れ、siRNAとshRNAの違いまでをわかりやすく解説します。
siRNAとは?
siRNAは、目的の遺伝子のmRNAを分解し、その発現を抑制する短い二本鎖RNA分子のことです。
この仕組みは、生体内プロセスである「RNA干渉(RNA interference, RNAi)」を利用しています。
RNA干渉(RNAi)の仕組み
RNAiは細胞内で特定の遺伝子発現を抑制する仕組みで、以下のステップを経て行われます。
①「二本鎖RNA(dsRNA)の細胞内への導入」
⇩
②「Dicerによる切断」
⇩
③「RISC複合体の形成」
⇩
④「mRNAの分解」
まず初めに、細胞内に二本鎖RNA(dsRNA:double strand RNA)が導入されることで、RNA干渉(RNAi)が開始されます。
細胞内に導入されたdsRNAは、細胞内のDicer(ダイサー)と呼ばれる酵素によって、約21–25塩基対の短い二本鎖RNA(これをsiRNAと呼びます)に切断されます。
次に、siRNAの一本鎖(ガイド鎖)がRNA誘導サイレンシング複合体(RISC:RNA-induced silencing complex)に取り込まれます(=RISC複合体の形成)。
最後に、RISC複合体が標的のmRNAを認識し、目的のmRNAを分解することで遺伝子発現を抑制します。
siRNAノックダウン実験のプロトコル
それでは実際に、siRNAを用いた遺伝子のノックダウンの流れについて確認していきましょう。
以下では、よく行われているリポフェクション法を使用したsiRNAノックダウン実験の手順を例に解説します。
準備するもの ・siRNA:ターゲット遺伝子に特異的な配列を選択(自ら設計するだけでなく、市販のsiRNA製品を簡単に購入することができます)。 ・リポフェクション試薬:Lipofectamine RNAiMAXなど。 ・細胞:健康で増殖中の細胞。
siRNAを用いた遺伝子のノックダウン実験の流れ
ステップ1.「siRNAとリポフェクション試薬の希釈と混合(複合体形成)」
siRNAを無血清培地(例:Opti-MEM)で最適濃度に希釈します(終濃度30 nMなど)。
次に、リポフェクション試薬も別で希釈します。
上記を混合し、室温で5–20分静置してsiRNAとリポフェクション試薬の複合体を形成させます。
これは、血清が存在すると、複合体形成が阻害されてしまうからだよ。
ステップ2.「細胞へのsiRNAのトランスフェクション」
培養中の細胞の培地を交換し、ステップ1.で調製したsiRNAとリポフェクション試薬の混合液(トランスフェクション液)を、細胞が入った培養プレートに追加で添加し、軽く揺らして均一に分散させます。
ステップ3.「インキュベーション」
細胞を37°C、5% CO2環境で24–72時間培養など培養します。
細胞種によっては、6時間程度の培養後にトランスフェクションに使用した培地を除去して、新しい培地に交換します。
ステップ4.「ノックダウン効果の確認」
トランスフェクションした細胞を回収し、「RT-qPCR」でmRNA発現の変化を解析し、「ウェスタンブロット法」でタンパク質発現の変化を解析することで、目的遺伝子のノックダウン効率を評価することができます。
RT-qPCRについては、「3)リアルタイムPCRによる定量PCR」で解説をしていますのでご覧ください。
-
3)リアルタイムPCRによる定量PCR
1.リアルタイムPCRとは リアルタイムPCRとは、PCRによる増幅産物をリアルタイムでモニタリングすることで、増幅率に基づいて初期のDNAの定量ができる定量PCRのことです。 リアルタイムRT- ...
続きを見る
ウェスタンブロット法については、「2)ウエスタンブロッティング」で解説をしていますのでご覧ください。
-
2)ウエスタンブロッティング
1.ウエスタンブロッティング(WB)とは ウエスタンブロッティングとは、SDS-PAGEによって分離したタンパク質を疎水性膜(メンブレン)に転写し、任意のタンパク質に対する抗体を用いて特定のタンパク ...
続きを見る
siRNAと同様に、遺伝子の発現を抑制して遺伝子の機能を解析する実験手法として、「shRNA(short hairpin RNA)」を用いた遺伝子のノックダウンも広く利用されています。
次に、siRNAとshRNAの違いについて確認していきましょう。
siRNAとshRNAの違い
siRNAは、一時的な遺伝子の発現抑制に適している一方で、shRNA(short hairpin RNA)はその名前からもわかるように、ヘアピン構造をもつRNAのことで、長期間の遺伝子の発現抑制に適しています。
それでは、siRNAとshRNAのそれぞれの特徴について確認をしていきましょう。
siRNAの特徴
・構造:短い二本鎖RNA。
・効果の持続期間:数日間。
・用途:短期的な遺伝子抑制。
・導入方法:トランスフェクション。
shRNAの特徴
・構造:ヘアピン型RNA。
・効果の持続期間:数週間—数カ月。
・用途:長期的な遺伝子抑制(動物実験でよく用いられる)。
・導入方法:プラスミドやウイルスベクターを用いたトランスフェクション。
以下にsiRNAとshRNAの違いについて、簡単にまとめておきます。
項目 | siRNA | shRNA |
---|---|---|
構造 | 化学合成された二本鎖RNA | ヘアピン構造を持つRNA遺伝子 |
効果の持続期間 | 数日間 | 数週間—数カ月 |
導入方法 | トランスフェクション | プラスミドやウイルスベクターを用いたトランスフェクション |
実験目的 | 短期間のノックダウン | 長期的なノックダウン |
siRNAを用いたノックダウン実験の注意点
最後に、siRNAを用いたノックダウン実験の注意点について解説します。
コントロールの設定とオフターゲット効果について
コントロールsiRNA(無関係な配列を持つsiRNA)を用いて実験に使用することが必要です。
また、オフターゲット効果を回避するために、複数のsiRNAを用いて、一貫した結果を得ることが推奨されています。
siRNAを用いた遺伝子のノックダウンについて【実験の原理と流れ】についてはこれで以上です。
次は「1)反応速度と酵素反応速度」について学んでいきましょう。
-
1)反応速度と酵素反応速度
1.反応速度 反応速度とは、単位時間あたりの反応物(あるいは生成物)の濃度変化のことをいいます。 ○反応速度の定義 それでは、以下のような化学反応について考えてみましょう。 まず、 ...
続きを見る