生化学(実験手法)

2)遺伝子発現の網羅的解析(マイクロアレイ法)

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1.DNAマイクロアレイとは

 DNAマイクロアレイとは、数千〜数万種類といった非常に多くの既知遺伝子のDNA断片(これをDNAプローブといいます)を小さな基盤の上に並べたもののことで、DNAマイクロアレイ法を用いることにより、細胞における遺伝子発現の網羅的な解析を行うことができます。

※DNAプローブとは、目的の DNAと相補的に結合するように人工的に設計された既知のDNA断片のことです。

※遺伝子発現の網羅的解析とは、DNAから転写された全遺伝子におけるmRNAの発現レベルを一度に解析できる手法のことをいいます。

2.DNAマイクロアレイ法の原理

 DNAマイクロアレイの基盤の上には、対象となる生物(例えばマウス など)がもつあらゆる遺伝子がDNAプローブとして固定されていますので、細胞内のmRNAから合成したcDNA(蛍光標識したもの)をこのDNAマイクロアレイ上に流し込むことにより、細胞内で発現している遺伝子を網羅的に解析することができます。

 細胞からmRNAを抽出し、逆転写酵素によってcDNAを合成する際、蛍光色素でcDNAを標識(ラベル)しておく必要があります。これをDNAマイクロアレイ上に流し込むと、基盤の上に固定したDNAプローブが蛍光色素で標識したcDNAハイブリダイゼーションしますので、このときの蛍光を観察することによって、細胞内でどの遺伝子がどの程度発現しているかを網羅的に知ることができます。

※ラベルには、1種類の蛍光色素でラベルする「1色法」と2種類の蛍光色素でラベルする「2色法」の二種類があります。

 例えば、ガン細胞と正常細胞における遺伝子発現の違いを網羅的に調べたい場合、まず、それぞれの細胞からmRNAを抽出し、逆転写酵素によってcDNAを合成します。このとき、ガン細胞由来のcDNAを赤色の蛍光色素で、正常細胞由来のcDNAを緑色の蛍光色素でそれぞれ標識します。

 DNAマイクロアレイ上に蛍光標識したcDNA溶液を流すことにより、DNAマイクロアレイの上に付いているDNAプローブとハイブリダイゼーションさせますと、赤色の蛍光を発する部位はガン細胞でのみ発現していた遺伝子、緑色の蛍光を発する部位は正常細胞でのみ発現していた遺伝子、黄色(赤+緑)の蛍光を発する部位は両方の細胞で発現していた遺伝子、黒色の部位はどちらの細胞でも発現していなかった遺伝子であったということが確認できます。

※cDNAとは、complementary DNAの略で、mRNAから逆転写酵素を用いて合成された相補的なDNAのことをいいます。ゲノム上にある遺伝子DNAとは違って、スプライシングを経てイントロンがなくなり、エキソンのみとなったmRNAの塩基配列を反映しています。

※cDNAをで標識(ラベル化)する蛍光色素としては、Cy3やCy5などが用いられます。

3.DNAマイクロアレイの利点と欠点

○利点

 DNAマイクロアレイ法では、一度に多量の遺伝子発現を調べられること(網羅的解析ができること)が最も大きな利点といえます。例えば、あるガン細胞における遺伝子発現の変化を網羅的に解析することができます。これにより、あるガンにおける治療の標的となる遺伝子を新たに発見することにつながるといったことが期待できます。

○欠点

 DNAマイクロアレイ法では、遺伝子の発現状態を調べることはできますが、タンパク質に関する情報を得ることはできません。すなわち、遺伝子はDNAからmRNA、mRNAからタンパク質へと翻訳されて始めてその機能を発揮しますが、mRNAレベルの情報しか解析できないDNAマイクロアレイ法では、発現量が増加した遺伝子が細胞内において、実際に機能しているかどうか(タンパク質に翻訳されずにすぐに分解される可能性もある)を示すことはできません。

 また、DNA マイクロアレイ法では、既知の遺伝子をDNA断片として設計する必要がありますので、解析の対象となる遺伝子は既知でなければなりませんただし実際には、機能がよく解析されていない未知の遺伝子に関してもプローブは設計されていますので、遺伝子発現変化の情報をもとにその遺伝子の機能の手がかりを得られるかもしれません)。さらに、DNA マイクロアレイ法では、大量の遺伝子を同時に扱う弊害として、定量性が低いということが問題になります。そのため、発現量に変化が見られた遺伝子については、個別にリアルタイムPCRなどを用いた定量性のある解析を再度行うことが望まれます。

※近年注目を浴びている次世代シーケンサーでは、既知の遺伝子からDNAプローブを設計するといった操作が不要であるため、未知の遺伝子に関する情報までも得ることができます。

遺伝子発現の網羅的解析(マイクロアレイ法)についてはこれで以上です。
次は「1)反応速度と酵素反応速度」について学んでいきましょう。

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