脂肪酸合成とβ酸化の具体的な流れについては、「1)脂肪酸合成」と「2)脂肪酸のβ酸化」で解説しています。本項では、脂肪酸合成とβ酸化の違いについて解説しています。
脂肪酸合成とβ酸化の違い
脂肪酸の生合成は、基本的には脂肪酸のβ酸化の逆反応になっていますが、主に5つの違いがあります。
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1.細胞質とミトコンドリアマトリクス
まずは、脂肪酸合成とβ酸化が行われる「場所」の違いについてです。
脂肪酸のβ酸化はミトコンドリアのマトリクスで行われますが、脂肪酸合成は細胞質で行われています。
脂肪酸のβ酸化の過程では、まず細胞質の脂肪酸が、CoA(コエンザイムA)と結合してアシルCoAに活性化され、その後アシルカルニチンとしてミトコンドリアに輸送されます。このように脂肪酸はミトコンドリアのマトリクスに輸送されてはじめて、「β酸化」によって分解されて大量のアセチルCoAを供給します。クエン酸回路では、アセチルCoAからATP合成の原料(NADH、FADH2およびGTP)を作りますので、その後の電子伝達系においてエネルギー(ATP)が作られるということになります。
アセチルCoAがミトコンドリア内膜を通過できないこと、ミトコンドリアが「エネルギー生産の工場」と呼ばれていることを踏まえると、アセチルCoAを供給する脂肪酸のβ酸化がミトコンドリアで行われていることが理解できると思います。
一方、「1)ペントースリン酸経路の役割」で解説したように、ペントースリン酸経路では、生合成に利用されるNADPHが生産されますが、このNADPHが細胞質で生産されていることを踏まえると、脂肪酸の生合成が細胞質で行われていることが理解できると思います。
2.ACPとCoA
次は、脂肪酸の「アシル基の運搬体」の違いについてです。
脂肪酸のβ 酸化では CoA(コエンザイム A )がアシル基の運搬体として機能していますが、脂肪酸合成では、その役割はACP( アシルキャリアタンパク質 ) が担っています。
アシル基とは、R-CO-という構造の官能基のことで、特に脂肪酸のアシル基というと、脂肪酸から-OH基が抜けた形のことを意味します。
「1)脂肪酸合成」で解説したように、ACP(アシルキャリアタンパク質)は、多機能酵素である脂肪酸合成酵素(FAS)の一部になっています。
3.マロニルCoAとアセチルCoA
次は、脂肪酸合成とβ酸化における「原料と生成物」の違いについてです。
脂肪酸合成とβ酸化では、ともに2炭素単位の繰り返し付加あるいは分解されていきます。しかし、β酸化ではアセチルCoA単位で分解されていきますが、脂肪酸合成では、アセチル-CoAを直接利用するのではなく、マロニルCoA単位を原料として利用しています。
マロニルCoAは炭素数が3つですが、脂肪酸合成ではマロニルCoAからCO2を放出させながら脂肪酸の鎖にアセチル基を付加させる反応が行われているのです。
4.NADPHとNAD+、Q
次は、脂肪酸合成とβ酸化における「補酵素」の違いについてです。
脂肪酸のβ 酸化では、補酵素としてNAD+とQ(ユビキノン)が使われますが、脂肪酸合成では、NADPHが利用されています。
ペントースリン酸経路で生産される補酵素であるNADPHが、主に生合成などに利用される補酵素であることを思い出しましょう。
5.D-3-ヒドロキシアシルACPとL-3-ヒドロキシアシルCoA
最後は、脂肪酸合成とβ酸化における「中間体」の違いについてです。
脂肪酸のβ酸化では中間体としてL-3-ヒドロキシアシルCoAが生じますが、脂肪酸合成ではD-3-ヒドロキシアシルACPが中間体として生成されます。
L-やD-というのは光学異性体を意味しており、これらは鏡の関係(右手と左手の関係)になっています。
脂肪酸合成とβ酸化の違いについてはこれで以上です。
次は「4)奇数鎖脂肪酸と不飽和脂肪酸のβ酸化」について学んでいきましょう。
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4)奇数鎖脂肪酸と不飽和脂肪酸のβ酸化
1.奇数鎖脂肪酸のβ酸化 1-1.プロピオニルCoAの生成 脂肪酸のβ酸化では、2炭素単位が繰り返し分解されていきますので、偶数鎖脂肪酸の場合、その炭素骨格のすべてがアセチルCoA(C2)の生成に利 ...
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