今回はペントースリン酸経路について学んで行きましょう。
1.ペントースリン酸経路とは
ペントースリン酸経路は
解糖系のグルコース6-リン酸を出発物質として核酸などの構成要素となる「リボース5-リン酸」などの5単糖を生産するとともに、NADPHを生成する経路のことをいいます。
○ペントースの合成
この経路では
「リブロース5-リン酸」「リボース-5リン酸」「キシルロース5-リン酸」の3種類のペントースが合成されますが、なかでも「リボース5-リン酸」は特に重要です。
これはDNAやRNAなどの「核酸の合成材料」として用いられます。
○NADPHの合成
「NADPH」が生成されることも重要です。
NADPHは還元剤として働きます。
(NADPHとNADHは混同しやすいようなので意識して区別しておく必要があります)
解糖で生じるNADHはミトコンドリアに運ばれてATP生産のためのプロトン駆動力を生じる段階で利用されますが、ペントースリン酸経路で生じるNADPHは細胞質内にとどまって、脂肪酸やコレステロールなどの生合成経路のための還元力や還元型グルタチオンの生成などに利用されることが特徴です。
特に「細胞分裂が活発に行われる組織」などにおいては、核酸などの必要性からこのペントースリン酸経路が必須の経路となっていることが想像できます。
それではペントースリン酸経路が行われている組織についてその生理的意義と関連づけながら確認していきましょう。
○発現組織と生理的意義
ペントースリン酸経路が活発な組織には
肝臓、脂肪組織、精巣、副腎皮質、乳腺、赤血球があげられます。
ペントースリン酸経路でのNADPHが
赤血球での還元型グルタチオンの再生に役立っていることは生理的に非常に重要です。
赤血球では活性酸素種やフリーラジカルによる障害から膜を保つためにNADPHが使われますが、これにはグルタチオンというグルタミン酸、システイン、グリシンからなるペプチドが関与しています。
グルタチオンには還元型と酸化型の2種類があり、還元型グルタチオン(GSH)はその還元力を使い、活性酸素である過酸化水素(H2O2)を水(H2O)に変えることによって活性酸素の毒性を無毒化しています。
還元型グルタチオンは基質を還元しますが
同時に還元型グルタチオン自身も基質によって酸化されるので、還元型グルタチオンは酸化型グルタチオン(GSSG)に変化してしまいます。
したがって、酸化型グルタチオンには還元力がないことを踏まえると、活性酸素を除去を常に行い続けるためには、酸化型グルタチオンを還元型グルタチオンに戻すという反応が必要になります。
そこで、生体ではペントースリン酸経路由来のNADPHの還元力を利用して還元型グルタチオンを再生させているのです。
※酸化型グルタチオンは2分子のグルタチオンが-SH(チオール基)どうしで結合したものです。
この他にも、肝臓ではコレステロールや脂肪酸などの生合成、脂肪組織や乳腺では脂肪酸の生合成、精巣や副腎皮質ではステロイドホルモンの生合成といった、さまざまな組織でNADPHの還元力が利用されています。
下の表にペントースリン酸経路が活発な組織とその生理的意義についてまとめておきます。
ペントースリン酸経路の活発な組織 (まとめ) | |
肝臓 | コレステロール、脂肪酸合成 |
脂肪組織 | 脂肪酸合成 |
精巣 | ステロイドホルモン合成 |
副腎皮質 | ステロイドホルモン合成 |
乳腺(授乳期) | 脂肪酸合成 |
赤血球 | 還元型グルタチオン合成 |
これでペントースリン酸経路の役割については以上です。
次は「2)ペントースリン酸経路の酸化的段階と非酸化的段階」について学んでいきましょう。
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2)ペントースリン酸経路の酸化的段階と非酸化的段階
ペントースリン酸経路の酸化的段階と非酸化的段階 黒アザラシペントースリン酸経路ってどのような経路でしたっけ? ペントースリン酸経路は、簡単に言うと、「グルコース6-リン酸」を異化する過程 ...
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