生化学(実験手法)

1)ジデオキシ法による塩基配列解析の原理と概要

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 PCRなどによって増幅したDNAは、「DNAシークエンス」と呼ばれる手法により、その塩基配列(A,T,G,Cの並び)を調べることができます。古くから知られているDNAシークエンスには、大きく分けて「マキサム・ギルバート法」と「ジデオキシ法(サンガー法)」の2種類があります。近年では、次世代シークエンサーの登場によって、膨大な数のDNAの塩基配列を一度に同時並行で解析する技術も確立し、「第二世代シークエンサー」とも呼ばれるようになっています。今回は、「ジデオキシ法(サンガー法)」について詳しく解説していきます。

1.DNAシークエンサー

 ジデオキシ法およびマキサム・ギルバート法は、ともにポリアクリルアミドゲル電気泳動によって放射性同位体で標識したDNA断片を分離し、オートラジオグラフィーで塩基配列を検出していましたが、近年では、ジデオキシ法を自動化する機械(DNAシークエンサーと呼ばれています)や蛍光色素による標識法の確立によって、比較的操作が簡便となった「ジデオキシ法」が主流となりました。

 ジデオキシ法の原理に基づくDNAシークエンサーは、「次世代シークエンサー」と対比して「古典的シークエンサー」あるいは「第一世代シークエンサー」とも呼ばれています。この手法では、1回の運転で0.5〜10万塩基を解析可能となっています。

※DNAシークエンサーとは、DNAの塩基配列を自動で読み取ることができる機械のことをいます。

1.ジデオキシ法(サンガー法)の原理

 DNA合成反応では、DNA合成に必要な4種の基質dNTP(デオキシヌクレオチド;dATP, dGTP, dCTP, dTTP)を加えると、試験管内での一本鎖DNAを鋳型としてDNAポリメラーゼが鋳型DNAに相補的な配列をもつプライマーをもとに塩基配列を1個ずつ伸長させていきます。 

 このとき、dNTP(dATP, dGTP, dCTP, dTTP)以外に、DNA鎖の伸長を停止させるddNTP2',3'-ジデオキシヌクレオチド;ddATP、ddGTP、ddCTP、ddTTPのいずれか)を少量加えておくと、ddNTPが取り込まれた時点でDNAの合成反応が停止します。すなわち、ddNTPが伸長中のDNA鎖に取り込まれると、伸長末端にあるヌクレオチドの3'末端が-OH基(ヒドロキシ基)ではなく-Hとなってしまうために、次の塩基が結合できず、DNA鎖の伸長が停止します。

 この鎖停止反応はランダムな位置で生じ、鎖長の異なるさまざまなDNA断片が得られることになります。そして、これらのDNA断片の3'末端は加えたddNTPによって決まっていますので、例えばddATPを加えた場合には、DNA断片の3'末端は、必ずA(アデノシン)であるということがわかります。

 このような原理から、「ジデオキシ法」では、まず、4種類のdNTP(dATP、dGTP、dCTP、dTTP)と1種類のddNTP(ddATP、ddGTP、ddCTP、ddTTPのいずれか)の混合溶液を用意します。そして、この溶液を用いてDNA合成を行なうと、それぞれのddNTPを取り込んだ時点で反応が停止し、鎖の長さの異なる様々なDNA断片が得られ、これをddATP、ddGTP、ddCTP、ddTTPの4種類ごとに行うことで、DNAの塩基配列を解読することができます。

32P標識したdCTPなども加えておくことにより、合成されたDNA鎖のみを変性ゲル電気泳動後にオートラジオグラフィーで観察します。DNAの変性とは、二本鎖DNAを一本鎖DNAに解離することをいいます。

 この方法は、ジデオキシヌクレオチドを加えるということから「ジデオキシ法」と呼ばれていますが、開発者であるサンガーという人物にちなんで「サンガー法」とも呼ばれることもあります。

2.DNAシークエンサーを用いたジデオキシ法

 冒頭でも述べましたが、現在では放射性同位体で標識する方法に代わって、蛍光色素で標識する方法が用いられるようになるとともに、DNAシークエンサーを用いて、自動化DNAシークエンスを行うことができるようになりました。ここからは、DNAシークエンサーを用いた自動化DNAシークエンス法について解説していきます。

自動化DNAシークエンス法では、4種類のdNTP(dATP、dGTP、dCTP、dTTP)と4種類のddNTP(ddATP、ddGTP、ddCTP、ddTTPのすべて)の混合溶液を用意し、このときの4種類のddNTPにはそれぞれ別々の色の蛍光色素で標識しておきます。

 そして、この溶液を用いてDNA合成を行なうと、それぞれのddNTPを取り込んだ時点で反応が停止し、4つの蛍光色素のうちのいずれか1つで標識されたさまざまな長さのヌクレオチド鎖ができますので、合成された二本鎖DNAを解離して一本鎖にして長さの順に並べます。

 その後、蛍光色素の色を識別する「DNAシークエンサー」を用いることによって、DNAの塩基配列をそれぞれの蛍光色素の色として読み取ることができます。

引用元:https://ja.wikipedia.org/wiki/DNAシークエンシング#/media/File:Sanger_sequencing_read_display.png

○自動化DNAシークエンス法の利点

 蛍光色素を用いた自動化DNAシークエンス法の利点としては、以下のようなことが挙げられます。

・蛍光色素の4種類用いることにより、1本の試験管のみで反応を行えること
・DNAシークエンサーによる自動化により、迅速かつ簡便に解析ができること
・放射性同位元素を使用しないので、安全であること
・オートラジオグラフィーが不要であること

ジデオキシ法による塩基配列解析の原理と概要についてはこれで以上です。
次は「2)マキサム・ギルバート法(従来法)」について学んでいきましょう。

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