クエン酸回路は、解糖によって生じたピルビン酸や脂質の分解によって生じた脂肪酸などから、電子伝達系で利用可能なNADHやFADH2を生み出す代謝経路として重要な役割を果たしていますが、エネルギー生成以外の面でも非常に重要な役割を担っています。今回はクエン酸回路の反応と生理的意義について学んでいきましょう。
1.クエン酸回路とは?
クエン酸回路とは、ミトコンドリアのマトリクスでアセチルCoA由来のアセチル基をCO2にまで完全分解する過程でNADHやFADH2などのエネルギーを生み出す回路のことをいいます。クエン酸回路はトリカルボン酸回路という意味でTCA回路とも呼ばれています。
2.クエン酸回路の生理的意義
クエン酸回路では
一周するごとに3NADHとFADH2とGTPを生成することから、その後の電子伝達系での反応を踏まえると、この回路はエネルギーを生産する系であるといえます。また、クエン酸回路における各種の中間産物はさまざまな生合成経路で利用されていることから、クエン酸回路は生合成の中間産物の供給源となっているともいえます。
つまり、クエン酸回路はアセチルCoAの分解という観点から異化経路でもあり、いくつかの生合成経路の前駆体を供給しているという観点から同化経路でもあるのです。このように、同化でも異化でもある代謝経路は双方向代謝と呼ばれます。
クエン酸回路と生合成経路との関係
クエン酸回路ではさまざまな中間産物を生じることを述べましたが、特に、クエン酸、α-ケトグルタル酸、スクシニルCoA、オキサロ酢酸がどのようにして生合成経路で利用されているかについては理解しておくことが望まれます。
クエン酸は、ミトコンドリアの外に輸送された後、クエン酸リアーゼによってオキサロ酢酸とアセチルCoAに分解されます。このようにして生じたアセチルCoAは脂肪酸やステロイドの生合成に用いられます。
これに関しては「1)脂肪酸合成」で詳しく解説しています。
α-ケトグルタル酸は、グルタミン酸へ可逆的に変換されるため、タンパク質の合成素材としてやその他のアミノ酸の生合成に用いられます。また、脳内ではさらにグルタミン酸が脱炭酸されることでGABAが生成されますが、これらのグルタミン酸やGABAは脳内では神経伝達物質として用いられています。
スクシニルCoAは、グリシンと縮合してヘムなどのポルフィリンの生合成に用いられます。
オキサロ酢酸は、糖新生でのグルコースの生成に用いられるとともに、アスパラギン酸へ可逆的に変換されるため、尿素回路やその他のアミノ酸の生合成などに用いられます。
クエン酸回路と生合成経路との関係はこちら↓
アナプレロティック反応とカタプレロティック反応
これらの反応は他の代謝経路で中間体を消費することからカタプレロティック反応と呼ばれています。一方で、これらの中間体が生合成経路に入って失われてしまった場合には、アナプレロティック反応によって他の経路から代謝の中間体を補充しなければいけません。
※クエン酸回路は回路を形成しているので、アナプレロティック反応によってどの中間体を補充してもすべての中間体の濃度が増加することになります
クエン酸回路における代表的なアナプレロティック反応
クエン酸回路におけるアナプレロティック反応として、特にピルビン酸カルボキシラーゼによるオキサロ酢酸の生成が非常に重要な調節段階となっています。ちなみに、これは糖新生の一部になっている反応になります。
糖新生のピルビン酸カルボキシラーゼによるオキサロ酢酸の生成はこちら↓
この他にも、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼによるオキサロ酢酸の補充反応などがあります。
※ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼとは違うので注意してください。
3.アセチルCoAの供給源
さて、これまでクエン酸回路の生理的意義について解説してきましたが、最後にクエン酸回路の反応の開始点となるアセチルCoAがどのようにして供給されているかを確認しておきましょう。
クエン酸回路の最初の反応はアセチルCoAとオキサロ酢酸の反応から始まりますが、このときのアセチルCoAは主にグルコースの解糖や脂肪酸のβ酸化、アミノ酸の脱アミノ反応などから供給されます。
このように、クエン酸回路は糖質だけでなく脂質やタンパク質などを含む、さまざまな物質の異化過程でエネルギーを得るために重要な役割を担う回路となっているのです。
クエン酸回路の役割についてはこれで以上です。
次は「2)クエン酸回路の反応」について学んでいきましょう。
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2)クエン酸回路の反応
今回はクエン酸回路の反応について学んでいきましょう。 クエン酸回路の最初の反応は、アセチルCoAとオキサロ酢酸の縮合反応になりますが、このときのアセチルCoAの供給は、解糖によって生じたピルビン酸の酸 ...
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