生化学

3)代表的なシグナル伝達の例(細胞内シグナル伝達)

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ここでは、細胞内でシグナル伝達がどのようにして行われていくかを確認していきましょう。

シグナル伝達の様式

シグナル伝達の仕組みを理解するためには、どのようにしてシグナル分子が活性化されたり不活性化されるのかを知っておく必要があります。

最低限押さえておきたいシグナル伝達の様式には、

・Gタンパク質を介したシグナル伝達
・リン酸化を介したシグナル伝達
・セカンドメッセンジャーを介したシグナル伝達

があります。

以下では、この3つの仕組みについて簡単に解説していきます。

Gタンパク質を介したシグナル伝達

Gタンパク質とは、GTP結合タンパク質のことをいいます。

そのため、Gタンパク質にはGTPGDPが結合していることになりますが、

一般的にはGタンパク質にGDPが結合している状態が不活性型で、GTPが結合している状態が活性型のコンフォメーションをとります。

Gタンパク質は普段はGDPと結合した不活性型のGタンパク質として存在しますが、

刺激を受けると、Gタンパク質からGDPが解離してGTPが結合するグアニンヌクレオチド交換反応が起こり、活性型のGタンパク質へと変換され、シグナル伝達が行われていきます。

Gタンパク質には大きく分けて、三量体Gタンパク質低分子量Gタンパク質の2種類があります。

受容体の中には、この三量体Gタンパク質を介してシグナル伝達を行うものがあり、この種類の受容体のことを特に、Gタンパク質共役型受容体GPCR:G Protein-Coupled Receptor)といいます。

リン酸化を介したシグナル伝達

多くのタンパク質は、さまざまな化学修飾を受けることによってコンフォメーションや酵素活性などを変化させます。

このようなタンパク質の化学修飾は、mRNAがタンパク質へと翻訳された後に行われるタンパク質の機能制御の機構であることから、特にタンパク質の翻訳後修飾と呼ばれています。

タンパク質の翻訳後修飾の代表的なものには、リン酸化があります。

その他にも、タンパク質の翻訳後修飾にはアセチル化メチル化ユビキチン化脂質付加糖鎖付加などがあります。

この中で特に覚えておきたいのが、リン酸化を介したシグナル伝達です。

タンパク質は、キナーゼ(リン酸化酵素)と呼ばれる酵素によってリン酸化されて、ホスファターゼ(脱リン酸化酵素)と呼ばれる酵素によって脱リン酸化されます。

多くのタンパク質は、リン酸化や脱リン酸化を介して活性が調節されています。

そのため、刺激によってキナーゼによるリン酸化あるいはホスファターゼによる脱リン酸化を受けることで、タンパク質が活性化されてシグナル伝達が行われていきます。

黒アザラシ
リン酸化によって活性化されるタンパク質も多いですが、中にはリン酸化によって不活性されるタンパク質もあります。

その他のタンパク質の翻訳後修飾の主な働きについては以下にまとめておきます。

メモ

リン酸化・・・タンパク質の活性の制御など

アセチル化メチル化・・・タンパク質の活性の制御など

ポリユビキチン化・・・プロテアソームによる分解の指標

脂質付加・・・細胞内局在などを制御(細胞膜への埋め込み、小胞体膜への埋め込みなど)

糖鎖付加・・・膜タンパク質に多く見られる

セカンドメッセンジャーを介したシグナル伝達

細胞膜で受容体が受け取ったシグナルを細胞内で中継する分子のことをセカンドメッセンジャーといいます。ちなみに、受容体に結合するシグナル分子がファーストメッセンジャーです。

覚えておきたいセカンドメッセンジャーには、

cAMP
ジアシルグリセロール(DG)とイノシトール3リン酸IP3:イノシトール1,4,5-三リン酸)
Ca2+

などがあります。

以下に、これらのセカンドメッセンジャーを産生するエフェクター分子とセカンドメッセンジャーにより活性化される分子をまとめておきます。

メモ

・アデニル酸シクラーゼ→cAMP→プロテインキナーゼA(PKA)

・ホスホリパーゼC(PLC)→ジアシルグリセロールDG)とイノシトール3リン酸IP3)→プロテインキナーゼC(PKC)やカルモジュリン依存性プロテインキナーゼ(CaMキナーゼ)

・イオンチャネル→Ca2+→カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ(CaMキナーゼ)

受容体を介したシグナル伝達の代表例

それでは、代表的なシグナル伝達の例を簡単に確認していきましょう。

①インスリン受容体・・・酵素共役型受容体(チロシンキナーゼ型受容体)

インスリンがインスリン受容体に結合すると、インスリン受容体はインスリン受容体がもつチロシンキナーゼ活性によって自己リン酸化されます。これによってチロシンキナーゼ活性がさらに活性化されて、今度はアダプタータンパク質の一種であるIRS(insulin receptor substrate)をリン酸化します。

次にリン酸化されたIRSはPI3キナーゼ(ホスファチジルイノシトールの3位をリン酸化する酵素)を活性化し、細胞膜上のPIP2(ホスファチジルイノシトール2リン酸)をPIP3(ホスファチジルイノシトール3リン酸)に変換します。このPIP3ドッキングサイトとしてプロテインキナーゼBPKBAktとも呼ばれる)やPDK1(ホスファチジルイノシトール依存性プロテインキナーゼ)を細胞膜に呼び寄せることができます。

その後、細胞膜に呼び寄せられたPKB(Akt)はPDK1によってリン酸化され、活性型PKB活性型Akt)に変換します。このようにして生じた活性型PKB(活性型Akt)は細胞膜を離れてさらに下流のタンパク質をリン酸化していきます。

このようなインスリンの経路はその反応の酵素の名前から「PI3K/Akt経路」と呼ばれています。

インスリンシグナル伝達(PI3K-Akt-mTORC1)の流れ

Aktの働きの一つにmTORC1(mechanistic target of rapamycin complex1)の活性化があります。

活性化されたAktはまず、TSC2(Tuberous Sclerosis Complex 2:結節性硬化症複合体2)と呼ばれるタンパク質をリン酸化して阻害します。

TSC2はTSC1やTBC1D7との3量体からなる複合体(TSC:TSC1-TSC2-TBC1D7)を形成していますが、AktによってTSC2がリン酸化されることによって、リソソーム膜から解離していきます。TSCは、mTORC1を活性化する低分子量Gタンパク質であるRhebに対するGTPase活性化タンパク質(GTPase- activating protein:GAP)として働くことで、普段はmTORC1を阻害しています。

一方、活性化されたAktがTSC2をリン酸化してRhebの抑制が解除されると、RhebによってmTORC1は活性化されます。

活性化されたmTORC1は、標的タンパク質であるS6K(リン酸化されたS6Kは40Sリボソームタンパク質S6のリン酸化を介して翻訳を促進する)や4EBP(リン酸化された4EBPは翻訳開始因子eIF4Eから解離して翻訳を促進する)をリン酸化することによって、タンパク質合成(翻訳)を促進します。

メモ

・インスリン受容体はチロシンキナーゼ型受容体である

・インスリンはPI3K-Akt経路を介してmTORC1を活性化する

・mTORC1はS6Kや4EBPをリン酸化して翻訳を促進する

②EGFやFGFなどの受容体・・・酵素共役型受容体(チロシンキナーゼ型受容体)

EGFやFGFなどの成長因子が受容体に結合すると、自己リン酸化とアダプタータンパク質のリン酸化を介して、GRB2SOSの複合体が活性化されます。SOSは低分子量Gタンパク質であるRasに対するGEFとして作用することで、Rasを活性化します。

活性化されたRasは、MAPKKK(MAPキナーゼキナーゼキナーゼ)であるRafをリン酸化して活性化します。活性化されたRafMAPKK(MAPキナーゼキナーゼ)であるMEKをリン酸化して活性化します。そして、活性化されたMEKはMAPK(MAPキナーゼ)であるERKをリン酸化して活性化します。

このようにして、Ras-Raf-MEK-ERKの経路(ERK経路)が活性化されますが、このようなMAPK(MAPキナーゼ)のリン酸化の連鎖反応をMAPキナーゼカスケードといいます。

MAPキナーゼカスケードの流れ

MAPキナーゼカスケードには、ERK経路の他にもp38経路JNK経路などがあります。

一方、EGFやFGFなどの受容体はインスリン受容体と同じチロシンキナーゼ型の受容体なので、PI3K-Akt経路も活性化することが知られています。

③Gタンパク質共役型受容体(Gs)・・・グルカゴン受容体

グルカゴンが7回膜貫通型のGタンパク質共役型受容体であるグルカゴン受容体に結合すると、α,β,γの三つのサブユニットから成るGタンパク質のαサブユニットからGDPが解離し、GTPが結合するグアニンヌクレオチド交換反応が起こります。これによってGタンパク質は活性化されます。

その後、GTPが結合した活性型Gタンパク質はアデニル酸シクラーゼを活性化し、これがATPからcAMPへの合成を促進します。cAMPはセカンドメッセンジャーとしてPKA(プロテインキナーゼA)を活性化します。PKAとは、cAMPによって活性化されるプロテインキナーゼのことです。

7回膜貫通型Gタンパク質共役型受容体であるグルカゴン受容体に共役しているGαサブユニットは、アデニル酸シクラーゼを活性化することによって細胞内cAMP濃度を上昇させますが、このようにアデニル酸シクラーゼを活性化するタイプのGタンパク質のことをGsと呼びます。

グルカゴン受容体を介したシグナル伝達の流れ

メモ

・グルカゴン受容体はGsと共役しているGタンパク質共役型受容体(Gs)である

sはアデニル酸シクラーゼを活性化し、細胞内のcAMP濃度を上昇させる

cAMPセカンドメッセンジャーとしてPKAを活性化しシグナル伝達を行う

④Gタンパク質共役型受容体(Gi)・・・アセチルコリン受容体(M2、M4

三量体Gタンパク質にはGαの違いによって大きく分けてGsGiGqの3種類があります。

Gsアデニル酸シクラーゼを活性化するタイプ、Giアデニル酸シクラーゼを抑制するタイプ、GqPLC(ホスホリパーゼC)を活性化するタイプのことをいいます。

アセチルコリン受容体には、イオンチャネル性の受容体とGタンパク質共役型受容体の2種類が存在しています。

Gタンパク質共役型のアセチルコリン受容体のことをムスカリン性アセチルコリン受容体といい、M1~M5の5種類が存在しています。

このうち、M2とM4Giと共役しているGタンパク質共役型受容体(Gi)となっています。

そのため、アセチルコリンが7回膜貫通型のGタンパク質共役型受容体であるムスカリン性アセチルコリン受容体(M2あるいはM4)に結合すると、アデニル酸シクラーゼが抑制されます。

アセチルコリン受容体(Gi)を介したシグナル伝達の流れ

 

メモ

・ムスカリン性アセチルコリン受容体(M2とM4)はGiと共役しているGタンパク質共役型受容体(Gi)である

iはアデニル酸シクラーゼを抑制し、細胞内のcAMP濃度を減少させる

⑤Gタンパク質共役型受容体(Gq)・・・アセチルコリン受容体(M1、M3、M5

Gタンパク質共役型のアセチルコリン受容体のうち、M1とM3とM5Gqと共役しているGタンパク質共役型受容体(Gq)となっています。

そのため、アセチルコリンが7回膜貫通型のGタンパク質共役型受容体であるムスカリン性アセチルコリン受容体(M1あるいはM3あるいはM5)に結合すると、ホスホリパーゼCPLC)を活性化して、ホスファチジルイノシトール4,5-ビスリン酸(PIP2)を分解して、ジアシルグリセロールDG)とイノシトール3リン酸IP3:イノシトール1,4,5-三リン酸)を産生させます。

ジアシルグリセロール(DG)とイノシトール3リン酸(IP3)はセカンドメッセンジャーとして働きますが、ジアシルグリセロール(DG)は細胞膜上でプロテインキナーゼCPKC)を活性化します。一方、イノシトール3リン酸(IP3)は小胞体からのCa2+の放出を促進することによって、プロテインキナーゼCPKC)を活性化するとともに、カルモジュリンというCa2+結合タンパク質を介してカルモジュリン依存性プロテインキナーゼCaMキナーゼ)も活性化します。

アセチルコリン受容体(Gq)を介したシグナル伝達

メモ

・ムスカリン性アセチルコリン受容体(M1とM3とM5)はGqと共役しているGタンパク質共役型受容体(Gq)である

qはホスホリパーゼC(PLC)を活性化し、ジアシルグリセロール(DG)とイノシトール3リン酸(IP3)を産生させる

代表的なシグナル伝達の例(細胞内シグナル伝達)についてはこれで以上です。
次は「」について学んでいきましょう。

【参考】

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