ケトン体は、脳でのグルコースが枯渇したときに、唯一のエネルギー源となる重要な物質です。今回はそのケトン体の生成と利用について学んでいきましょう。
1.ケトン体とは
ケトン体とは、アセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸、アセトンの総称のことで、飢餓時や絶食時においてグルコースの代わりに脳のエネルギー源として使われています。3-ヒドロキシ酪酸はカルボキシ基の隣の炭素(α炭素)のさらに隣の炭素(β炭素)にヒドロキシ基を持つことからβ-ヒドロキシ酪酸とも呼ばれます。
2.ケトン体の生成
ケトン体の生成について確認していきましょう。
ケトン体は、主に肝臓で作られますが、体内のグルコースが十分に存在するときにはあまり多くは作られていません。これは普段、肝臓での解糖や脂肪酸のβ酸化によって生成されたアセチルCoAの大部分は、クエン酸回路で消費されているからです。(普段もケトン体は作られていますので注意しましょう)
※クエン酸回路については「2)クエン酸回路の反応」で詳しく解説しています。
一方、飢餓時には血糖値が低下し体内のグルコースが枯渇するため、オキサロ酢酸が不足してしまいます。これは、グルコースが枯渇し、解糖が行われていない状態では、解糖によるピルビン酸の生成が行われないためです。
「1)クエン酸回路の役割」でも解説したように、飢餓時においては、糖新生の酵素であるピルビン酸カルボキシラーゼが活性化されるため、ピルビン酸カルボキシラーゼによるピルビン酸からのオキサロ酢酸の補充反応(アナプレロティック反応)が行われますが、解糖以外から供給されたピルビン酸においても、生じたオキサロ酢酸はそのまま糖新生で用いられてしまうため、オキサロ酢酸は蓄積していきません。
つまり、解糖が抑制され、糖新生が促進されている「飢餓の状態」では、オキサロ酢酸が不足します。その結果、アセチルCoAがクエン酸回路での必要量を上回り、過剰に蓄積されたアセチルCoAからケトン体が生成されるのです。
3.ケトン体生成の経路
それでは、ケトン体生成の経路を確認していきましょう。
ケトン体生成の経路はこちら↓
まず、ミトコンドリアにおいて、2分子のアセチルCoAが縮合してアセトアセチルCoAが生じます。次に、HMG-CoAシンターゼという酵素によって、アセトアセチルCoAにさらにもう1分子のアセチルCoAが縮合してHMG-CoA(ヒドロキシメチルグルタリルCoA)が生じます。その後、HMG-CoAはHMG-CoAリアーゼという酵素によって、アセト酢酸を生じます。(このときアセチルCoAも生じます)
・アセト酢酸から3-ヒドロキシ酪酸への変換は、3-ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼという酵素によって行われています。
・アセト酢酸からアセトンへの変換は、非酵素的にアセト酢酸が脱炭酸されることによって行われています。
このようにして、ケトン体と呼ばれる「アセト酢酸」「3-ヒドロキシ酪酸」「アセトン」が生じます。
ケトン体生成の経路の詳細はこちら↓
4.ケトン体の利用
ケトン体は、肝臓以外の細胞のミトコンドリア内で利用されます。
脂肪を分解して得られる脂肪酸は血液脳関門を通過することができないので、脳は脂肪酸をエネルギー源として利用することができません。そのため、体内でグルコースが枯渇したときには、それに変わる脳のエネルギー源を作らなければいけません。
ケトン体は水溶性物質であり、血液脳関門を通ることができるので、脂肪酸をケトン体の形に変換し、脳のエネルギー源として利用されます。(脳以外にも骨格筋などその他の多くの組織でケトン体は利用されています)
肝臓のミトコンドリアで生成されたケトン体のうち、「アセト酢酸」「3-ヒドロキシ酪酸」は血液中に放出されて、その他の組織でアセチルCoAに変換された後、クエン酸回路に入って消費されます。
ちなみに、3-ヒドロキシ酪酸はアセト酢酸に変換されて利用されています。
アセト酢酸はスクシニルCoAと反応して、アセトアセチルCoAに変換され、その後さらに、2分子のアセチルCoAに変換されることで、クエン酸回路に入って利用されます。
ケトン体の利用はこちら↓
ここで、スクシニルCoAがクエン酸回路の中間体の1つであったことを思い出してください。スクシニルCoAは高エネルギー化合物であり、クエン酸回路でコハク酸に変換される過程ではGTPを生じますが、ケトン体の利用で用いられるときには、このエネルギーがCoA化合物の生成に用いられています。
アセト酢酸とスクシニルCoAからアセトアセチルCoAを生じる反応は、スクシニルCoAトランスフェラーゼという酵素によって行われますが、この酵素は肝臓では発現していません。このことが肝臓以外の組織でのみケトン体が利用される理由となっています。
ちなみに、ケトン体のうち、「アセトン」はアセト酢酸や3-ヒドロキシ酪酸と比べて、ごく少量しか生じていません。その上、アセトンは呼気中に放出されるため、エネルギー源としては用いられていないと考えられます。
ケトン体の生成と利用についてはこれで以上です。
次は「1)アミノ基転移反応」について学んでいきましょう。
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