酵母ツーハイブリッド法とは
酵母ツーハイブリッド(Yeast Two-Hybrid )法は、酵母内に導入したレポーター遺伝子の転写活性化を指標に、タンパク質とタンパク質の相互作用(結合)を調べることができる手法のことです。
※タンパク質は単体で機能するものばかりではなく、複合体を形成することによって機能しているものが多くあります。酵母ツーハイブリッド法は、あるタンパク質に結合する未知のタンパク質を同定するときによく用いられます。
共免疫沈降(Co-IP)法と酵母ツーハイブリッド法の違い
共免疫沈降法(Co-IP)では、酵母ツーハイブリッド法と同様にタンパク質-タンパク質間の相互作用(結合)を調べることができますが、その用途は大きく異なっています。一般的に共免疫沈降法では、タンパク質Aとタンパク質Bの相互作用を調べる場合に、相互作用するタンパク質Bの候補が決まっているときにタンパク質Bに対する抗体を用いて検出しますが、酵母ツーハイブリッド法では、相互作用するタンパク質Bの候補が決まっていないときにcDNAライブラリーを用いて相互作用する未知のタンパク質を検出します。そのため、酵母ツーハイブリッド法では、あるタンパク質に結合する未知のタンパク質をスクリーニングすることができるという特徴があります。
1. 酵母ツーハイブリッド法の原理
それでは、あるタンパク質Aと相互作用する未知のタンパク質Bを見つけたい場合を例に考えてみましょう。
酵母ツーハイブリッド法の基本的な原理には、主にGAL4(酵母由来)やLexA(大腸菌由来)などの転写因子による転写活性化に転写因子のDNA結合ドメイン(DNA-binding domain:DNA-BD)と転写活性化ドメイン(Activation domain:AD)の両方が必要であるという性質を利用しています。
※GAL4という転写因子は、DNA結合ドメインを介してUASと呼ばれるプロモーター上の応答配列に結合し、転写活性化ドメインを介して下流の遺伝子の転写を活性化します。
そこで酵母ツーハイブリッド法では、GAL4のDNA結合ドメインを目的タンパク質Aとの融合タンパク質として発現させ、GAL4の転写活性化ドメインを未知のタンパク質B(cDNAライブラリー)との融合タンパク質として発現させ、さらにUASの下流にレポーター遺伝子(LacZなど)を導入したものを同時に酵母細胞内で発現させます。
これらの各ドメインは、片方のみでは転写を活性化することができませんが、タンパク質Aとタンパク質Bが相互作用した(接近した)ときにのみ、GAL4のDNA結合ドメインと転写活性化ドメインを含む複合体が形成され、レポーター遺伝子の転写を活性化します。
レポーター遺伝子にLacZを用いた場合、LacZはβ-ガラクトシダーゼをコードしている遺伝子ですので、タンパク質Aとタンパク質Bの相互作用が生じているときには、β-ガラクトシダーゼの合成量が増加します。そこで、X-gal(β-ガラクトシダーゼの基質となり、分解されることで青色を呈する)を培地に加えておくことによって、青色のコロニーが生じれば、タンパク質Aとタンパク質Bの相互作用が生じたコロニーであることが分かります。このコロニーを選択し、GAL4の転写活性化ドメインを含んだプラスミドベクターのDNAの塩基配列をシークエンスにより解析することによって、タンパク質Bがどのタンパク質であったかを明らかにすることができます。
おとり(bait)と獲物(prey)
よく、GAL4のDNA結合ドメインを融合させたタンパク質Aをおとりとすることから「bait」と呼び、相互作用するタンパク質B(cDNAライブラリー)を獲物とすることから「prey」と呼びます。
2. 酵母ツーハイブリッド法の利点と欠点
酵母ツーハイブリッド法の利点としては
①真核生物である酵母内で相互作用を検出できる
②あるタンパク質に結合する未知のタンパク質を検出できる
③cDNAライブラリーを用いることで、多量のタンパク質の中からスクリーニングできる
④タンパク質の精製を行う必要がないことなどがあります。
酵母ツーハイブリッド法の欠点としては
①偽陽性が出やすいことなどがあります。
酵母ツーハイブリッド法の原理と概要についてはこれで以上です。
次は「」について学んでいきましょう。
【参考】