ミトコンドリア内の電子伝達系で酸素を消費する過程では、多量のエネルギー(ATP)が産生されると同時に、多くの疾患の発症や老化の進行と関わりがある活性酸素が常に発生しています。今回は、このようにして生じた活性酸素がどのようにして除去されているのかを中心に解説していきます。
1.活性酸素とは
活性酸素の種類(狭義)
活性酸素とは、酸素分子よりも酸化力が強い酸素や酸素の誘導体のことで、一般的に「スーパーオキシド」「過酸化水素」「ヒドロキシラジカル」「一重項酸素」の4種類があります。
ここでいう酸素分子とは、三重項酸素のことを指しています。物質の最も安定な状態は基底状態と呼ばれ、空気中にある酸素の大部分はこの基底状態の酸素(三重項酸素)になっています。酸素は基底状態が三重項で、励起されると一重項になる例外的な分子で、生体や食品を構成する物質の大部分は一重項状態が基底状態となっています。
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三重項と一重項ってどういう意味?
三重項状態とは同じスピンの向きの電子を2つもつ分子のことで、
一重項状態とはスピンの向きが正負同数である分子のことをいいます。
言葉の説明だけでは少しわかりにくいので、三重項酸素と一重項酸素の違いを図として載せておきます。
三重項酸素と一重項酸素の違いはこちら↓
実は、三重項酸素も高いエネルギーをもっていますが、三重項分子と一重項分子は反応しないという性質があるので、常温では基底状態の酸素(三重項酸素)は激しい酸化反応を起こしにくくなっています。
しかし、基底状態にある酸素が何らかのエネルギーによって励起されると一重項酸素に変化して、活性酸素としてさまざまな物質(多くの物質は一重項状態が基底状態になっています)と反応を起こすようになります。
フリーラジカルとは
フリーラジカルとは、不対電子をもつ反応性が高い物質のことです。物質は共有結合によって2つの電子が対となっていますが、何らかのエネルギーを受けると共有結合が切れてフリーラジカルを生じます。
A : B → A・ + B・
ラジカルは反応性が高く不安定な物質なので、生体分子などに多くの傷害を与えます。活性酸素のうち、ヒドロキシラジカルやスーパーオキシドはフリーラジカルの一種(これらは不対電子をもっています)で、このうち、ヒドロキシラジカル(・OH)は活性酸素の中で最も反応性が高く、最も酸化力が強いフリーラジカルです。
ヒドロキシラジカルは過酸化水素への紫外線の照射や、過酸化水素と2価の鉄イオンの反応(フェントン反応)などによって生成されます。
フェントン反応についてはこちら↓
スーパーオキシドアニオンラジカル
スーパーオキシドアニオンラジカル(スーパーオキシドと呼ぶことが多い)は、酸素が電子を1つ受け取って、アニオン(陰イオン)に変化したものです。スーパーオキシドはヒドロキシラジカルとは違い、それ自体の反応性はそれほど高くありません。
しかし、スーパーオキシドからは種々の反応によって過酸化水素やヒドロキシラジカルなどの活性酸素を生成しますので、活性酸素として非常に重要な分子となっています。
2.ミトコンドリアでの活性酸素の発生と除去
活性酸素の発生
ミトコンドリア内の電子伝達系では、酸素を消費する過程で、スーパーオキシドや過酸化水素といった活性酸素が発生しています。
活性酸素の発生はこちら↓
この過程で生じるスーパーオキシドや過酸化水素は、それぞれSOD(スーパーオキシドジスムターゼ)やカタラーゼといった抗酸化酵素によって取り除かれています。
①スーパーオキシドジスムターゼ
SOD(スーパーオキシドジスムターゼ)はその名の通り、スーパーオキシドを不均化する酵素のことで、2分子のスーパーオキシドを不均化して過酸化水素と酸素に分解します。ここでの不均化とは、2つの同一種の物質から異なる二種類の物質を生じる反応のことをいいます。
スーパーオキシドの不均化反応についてはこちら↓
この反応で生じた過酸化水素は、さらにカタラーゼやグルタチオンペルオキシダーゼによる分解を受けて水に変換されます。
②カタラーゼ
カタラーゼは、2分子の過酸化水素を不均化して水と酸素に変換させます。
カタラーゼによるH2O2の分解はこちら↓
③グルタチオンペルオキシダーゼ
グルタチオンには還元型と酸化型の2種類があり、還元型グルタチオン(GSH)はその還元力を使い、活性酸素である過酸化水素(H2O2)を水(H2O)と酸素(O2)に変えることによって活性酸素の毒性を無毒化していますが、この反応はグルタチオンペルオキシダーゼという酵素によって行われています。ここでのペルオキシダーゼとは、酸素を2つ連続してもつ物質(ペルオキシ構造-O-O-をもつ物質)を酸化的に分解する酵素のことをいいます。
還元型グルタチオンは基質を還元しますが、
同時に還元型グルタチオン自身も基質によって酸化されるので、還元型グルタチオンは酸化型グルタチオン(GSSG)に変化してしまいます。
「1)ペントースリン酸経路の役割」で解説したように、生体ではペントースリン酸経路由来のNADPHの還元力を利用することで還元型グルタチオンを再生しています。
グルタチオンペルオキシダーゼによるH2O2の分解はこちら↓
※酸化型グルタチオンは2分子のグルタチオンが-SH(チオール基)どうしで結合したものです。
その他
活性酸素の除去には、いわゆるスカベンジャーと呼ばれる、ビタミン類(CやEなど)やポリフェノールといった抗酸化物質によっても行われています。
ミトコンドリアでの活性酸素の発生と除去についてはこれで以上です。
次は「1)糖新生の役割」について学んでいきましょう。
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1)糖新生の役割
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