ペントースリン酸経路の酸化的段階と非酸化的段階
1.酸化的段階
グルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼによる酸化的反応
ペントースリン酸経路の酸化的段階では、
まず、解糖によって生じたグルコース6-リン酸が、グルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PDH)という酵素によって、6-ホスホグルコノラクトンへと変換されます。
この反応は酸化的反応なので、NADP+が還元されてNADPHが生じます。
反応式
グルコース6-リン酸+NADP+→6-ホスホグルコノラクトン+NADPH+H+
このグルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PDH)による最初の酸化的反応は、ペントースリン酸経路の中でも特に重要な調節段階となっています。
その理由の一つは、グルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PDH)が生成物であるNADPHによって、フィードハック阻害を受けるからです。
このフィードバック阻害の仕組みは、NADPHが必要ではないときにNADPHの産生を抑える働きをしています。
※フィードバック阻害とは、代謝系のある反応を触媒する酵素が、その代謝系の生産物によって抑制される現象のことをいいます。
ラクトナーゼによる加水分解
その後、6-ホスホグルコノラクトンはラクトナーゼという酵素によって加水分解されて、6-ホスホグルコン酸を生じます。
6-ホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼによる酸化的脱炭酸反応
最後に、6-ホスホグルコン酸は6-ホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼという酵素によってリブロース5-リン酸へと変換されます。
この反応は酸化的脱炭酸反応なので、CO2(脱炭酸)とNADPH(酸化)が生じます。
酸化的段階の反応式
グルコース6-リン酸+2NADP++H2O→リブロース5-リン酸+2NADPH+CO2+2H+
2.非酸化的段階
ペントースリン酸経路から解糖や糖新生の中間産物の産生
ペントースリン酸経路の酸化的段階で生成されたリブロース5-リン酸は、
同じ5炭糖であるキシルロース5-リン酸やリボース5-リン酸へと変換されます。
リブロース5-リン酸がエピメラーゼの作用を受けるとキシルロース5-リン酸へと変換され、
イソメラーゼの作用を受けるとリボース5-リン酸へと変換されます。
ここで覚えておきたいのは、リボース5-リン酸は核酸(DNAやRNA)の合成材料になることから、
核酸合成が活発な場合には酸化的段階で生成されたリブロース5-リン酸の多くが、リボース5-リン酸へと変換されるということです。
そのため、核酸合成はそれほど活発ではなく、NADPHのみを作り出したい場合には、
リブロース5-リン酸を解糖や糖新生の中間産物(フルクトース6-リン酸とグリセルアルデヒド3-リン酸)へと変換してしまう仕組みがあります。
このとき、3分子のリブロース5-リン酸が、
2分子のフルクトース6-リン酸と1分子のグリセルアルデヒド3-リン酸へと変換されます。
反応式
3リブロース5-リン酸→2フルクトース6-リン酸+グリセルアルデヒド3-リン酸
1. トランスケトラーゼとトランスアルドラーゼによる解糖や糖新生の中間産物への変換
まず、3分子のグルコース6-リン酸が酸化的段階を経て生じた3分子のリブロース5-リン酸が、
1分子のリボース5-リン酸(5炭糖)と2分子のキシルロース5-リン酸(5炭糖)へと変換されます。
反応式
3リブロース5-リン酸→リボース5-リン酸+2キシルロース5-リン酸
その後、トランスケトラーゼ→トランスアルドラーゼ→トランスケトラーゼという順に三段階の反応が行われて、最終的に、2分子のフルクトース6-リン酸と1分子のグリセルアルデヒド3-リン酸が生成します。
【トランスケトラーゼ】
リボース5-リン酸+キシルロース5-リン酸→セドへプツロース7-リン酸+ グリセルアルデヒド3-リン酸
【トランスアルドラーゼ】
セドへプツロース7-リン酸+グリセルアルデヒド3-リン酸→フルクトース6-リン酸+エリトロース4-リン酸
【トランスケトラーゼ】
キシルロース5-リン酸+エリトロース4-リン酸→フルクトース6-リン酸+グリセルアルデヒド3-リン酸
※トランスケトラーゼとは、ケトース基(CH2OH-CO)を他のアルドースと結合させる酵素のことをいいます。
※トランスアルドラーゼとは、ジヒドロキシアセトン基(CH2OH-CO-CHOH)を他のアルドースと結合させる酵素のことをいいます。
※アルドースとは、アルデヒド基をもつ単糖のことをいいます。
解糖や糖新生の中間産物はグルコース6-リン酸へと変換される
3分子のリブロース5-リン酸から生じた
2分子のフルクトース6-リン酸と1分子のグリセルアルデヒド3-リン酸は、
その後、多くはグルコース6-リン酸へと変換されます。
このとき、2分子のグリセルアルデヒド3-リン酸から
1分子のグルコース6-リン酸が生成されます。
そのため、6分子のグルコース6-リン酸から生じた6分子のリブロース5-リン酸は、
4分子のフルクトース6-リン酸と2分子のグリセルアルデヒド3-リン酸へと変換され、
その後、再び5分子のグルコース6-リン酸へと変換されます。
1分子のグルコース6-リン酸がペントースリン酸経路で代謝される過程において、
それぞれ酸化的反応が1回と酸化的脱炭酸反応が1回ずつ行われることを考えると、
ペントースリン酸経路は次のような式で表すことができます。
この反応式では、6分子のグルコース6-リン酸のうち、
5分子は元のグルコース6-リン酸へと変換されるという「回路」を形成していますので、
ペントースリン酸回路とも呼ばれています。
ペントースリン酸回路
6グルコース6-リン酸+12NADP+→5グルコース6-リン酸+12NADPH+6CO2+Pi
ペントースリン酸経路の酸化的段階と非酸化的段階についてはこれで以上です。
次は「1)グリコーゲン合成」について学んでいきましょう。
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