分子生物学

1)DNA複製の仕組みとテロメア

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DNA複製の仕組みとテロメア

1. DNAの半保存的複製

 細胞分裂が生じるときには、DNAのコピーが合成され、娘細胞に分配される必要がありますが、このようにDNAのコピーを作る仕組みをDNAの複製といいます。

このとき、複製された二本鎖のDNAのうち、片方のヌクレオチド鎖は元のDNAから受け継がれており、もう片方のヌクレオチド鎖は、それと相補的になるように新たに合成されたものになります。

このような複製の仕組みを「半保存的複製」と呼び、生物が行うDNA複製の仕組みは、この半保存的複製を採用していることがわかっています。

半保存的複製の証明

二本鎖DNAの複製の仕組みが明らかになる前には、複製の仕組みとして①保存的複製、②分散的複製、③半保存的複製の3つの可能性が考えられていました。メセルソンとスタールは、窒素の同位体(15N14Nよりも重い窒素)を用いた実験で、DNAの複製の仕組みが半保存的複製であることを証明しました。

・重窒素15Nを含む培地で培養した大腸菌を14Nを含む通常の培地へ(0回分裂)→密度勾配遠心分離によって重さによって分けると下側にDNAの層
・重窒素15Nを含む培地で培養した大腸菌を14Nを含む通常の培地へ(1回分裂)→密度勾配遠心分離によって重さによって分けると中間
にDNAの層
・重窒素15Nを含む培地で培養した大腸菌を14Nを含む通常の培地へ(2回分裂)→密度勾配遠心分離によって重さによって分けると上側
中間にDNAの層

※仮に保存的複製である場合、1回分裂の時点で中間層は観察されず、下側と上側にDNA層が観察されます。また、仮に分散的複製である場合、2回分裂の時点で上側と中間にDNA層が観察されず、上側と中間の間にDNA層が観察されます。

半保存的複製の証明

 

2. DNAの複製起点と複製フォーク

 DNAの複製が開始される部位のことをDNAの複製起点といいます。原核生物の場合、複製起点は1つしかありませんが、真核生物には複製起点が複数あることが特徴の一つになっています。

複製起点にはさまざまなタンパク質が集積し、複製フォーク(二本鎖DNAが解離してできるY字型の領域のこと)と呼ばれる部位を形成することで、一連のDNA複製が行われています。

※一回の複製で複製できる範囲のことはレプリコンといいます。

DNAの複製は、主にDNAトポイソメラーゼDNAヘリカーゼDNAプライマーゼDNAポリメラーゼDNAリガーゼの5つの酵素による反応によって行われています。

DNA複製の流れ
DNAトポイソメラーゼ

DNAヘリカーゼ

DNAプライマーゼ

DNAポリメラーゼ

DNAリガーゼ

 

以下では、これらの酵素の働きとともに、DNA複製の流れについて確認していきましょう。

DNA複製を行う5種類の酵素

①DNAトポイソメラーゼ:ねじれの解消

DNAトポイソメラーゼ
DNA複製の最初の段階は、まずDNAのねじれを解消することから始まります。DNAトポイソメラーゼには、DNAを切断・再結合させることによって、このDNAのねじれを解消する働きがあります。

 

②DNAヘリカーゼ:二本鎖をほどく

DNAヘリカーゼ
ねじれが解消した後、DNAの水素結合を切断し、二本鎖DNAを開くことで複製フォークが形成されます。DNAヘリカーゼには、複製フォークでDNAの水素結合を切り、二本鎖DNAをほどく働きがあります。

 

②'一本鎖DNA結合タンパク質(SSB):一本鎖DNAの安定化

一本鎖DNA結合タンパク質(SSB)
DNAヘリカーゼによってほどかれた一本鎖DNAが、再び二本鎖DNAに戻ってしまうことを防ぐために、DNAの一本鎖部分には、一本鎖DNA結合タンパク質SSB:Single-Strand DNA-binding protein)が結合し、DNAの再結合を防ぎます

 

③DNAプライマーゼ:プライマーを作製

DNAプライマーゼ
一本鎖DNAをもとにDNAポリメラーゼがそれと相補的なDNAを合成・伸長させていきますが、DNAポリメラーゼはプライマー(RNA断片)と呼ばれる足場がなければ働くことができません。そこで、DNAプライマーゼの働きによって、プライマーが合成されます

 

④DNAポリメラーゼ:DNAの合成・伸長

DNAポリメラーゼ
その後、DNAポリメラーゼがプライマーをもとに一本鎖DNAと相補的なヌクレオチド鎖を5'→3'方向へと合成・伸長します

 

 DNAポリメラーゼには、間違って取り込んだヌクレオチドを取り除く機能(3'→5'エキソヌクレアーゼ活性)があり、これを校正機能といいます。エキソとは「外側から」という意味で、ヌクレアーゼとは「核酸分解酵素」という意味になります。

DNAポリメラーゼは5'→3'方向にしかDNA鎖を伸長できませんので、リーディング鎖(複製フォークの進行方向と同じ方向の一本鎖が合成される鎖)と呼ばれる片方のDNA鎖では、複製フォークの伸長方向と同じ方向(5'→3')にDNA鎖を連続して伸長させることができますが、ラギング鎖(複製フォークの進行方向と逆方向の一本鎖が合成される鎖)と呼ばれるもう片方のDNA鎖では、岡崎フラグメントと呼ばれる短いDNA断片不連続に合成され、その後DNAリガーゼによって連結されることによって相補的なDNA鎖が合成されます。

⑤DNAリガーゼ:DNA断片をつなぐ

DNAリガーゼ
ラギング鎖が合成される過程で、DNAリガーゼは岡崎フラグメントを連結するDNA連結酵素として働きます。

 

2. テロメアと末端複製問題

 環状DNAをもつ原核生物とは違って真核生物のDNAは線状DNAであることから、ラギング鎖の末端でRNAプライマーが分解された後、その部分にDNAポリメラーゼが働くことができず、DNAは複製の度にラギング鎖側のDNAの3′末端が短縮してしまいます

この現象は特に末端複製問題と呼ばれており、細胞の分裂回数が決まっていたり、生物の寿命と密接に関係していたりすることなどで知られています。

真核生物には染色体末端にテロメアと呼ばれる反復配列(GGGATTの繰り返し配列)をもっていますので、末端複製問題はこのテロメア領域において起こりますが、細胞分裂の度にテロメアは約100塩基ずつ短縮してしまいます。

テロメアの短縮は、染色体の不安定化を引き起こすことで細胞死を誘導してしまいます。

がん細胞幹細胞では、このテロメアの短縮を防ぐために、テロメラーゼと呼ばれる酵素によってテロメアを伸長させることができることが知られていますが、ヒトの体細胞では発現していないか、あるいは活性が低いことが知られています。

がん細胞が無限に増殖することができる仕組みの一つに、このテロメラーゼが関与しているとも言われています。

DNA複製の仕組みとテロメアについてはこれで以上です。
次は「1)原核生物の転写調節の仕組み」について学んでいきましょう。

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