核酸の定量法にはさまざまな手法がありますが、今回はよく用いられる手法の一つとして、「分光光度計」を使って吸光度を測定し、核酸(DNAやRNA)の濃度を求める手法について解説していきます。
1.DNAとRNAの濃度測定
○260nmの吸光度からDNA濃度の測定
DNAなどの物質には、特定の波長の光を吸収するという性質があります。そのため、分光光度計を用いて、特定の波長の光を当てたときの「吸光度」を測定することによって、サンプルに含まれている物質の濃度を求めることができます。
核酸(DNAやRNA)は波長260nm付近の紫外線をよく吸収します。そのため、分光光度計でA260の値を求めることにより、核酸の濃度を正確に求めることができます。260nmでの吸光度が1.0のときの核酸の濃度は以下のようになることが分かっています。
- 二本鎖DNA・・・50 μg/ml
- RNA・・・40 μg/ml
- オリゴヌクレオチド・・・33 μg/ml(塩基配列によって多少変動する)
これらの値を用いることにより、以下の式から核酸の濃度を簡単に求めることができます。
・RNAの濃度=A260×40(μg/ml)
・オリゴヌクレオチドの濃度=A260×33(μg/ml)
それでは、なぜ吸光度の値からDNAやRNAの濃度を測定することができるのかを確認していきましょう。
○ランベルト・ベールの法則
DNAやRNAの濃度は、分光光度計を使って吸光度を測定することによって求めることができます。溶液の吸光度をA、試料の濃度をc(mol/L)、光路長をl(cm)とすると、これらの間には
$$A=εcl\tag{1}$$
という関係式が成り立ちます。これは「ランベルト・ベールの法則」と呼ばれるもので、εはモル吸光係数と呼ばれる、物質固有の値になります。
260nmでの吸光度が1.0のときの核酸の濃度が、二本鎖DNAで50(μg/ml)、RNAで40(μg/ml)、オリゴヌクレオチドで33(μg/ml)という値は、すべて光路長1 cmでの値になります。核酸の濃度としては、重量濃度(μg/ml)が用いられますが、これらが試料の濃度をc(μg/ml)になります。
したがって、比例計算によって(1)式から核酸の吸光度を求めることにより、核酸の濃度c(μg/ml)を求めることができます。
吸光度(absorbance, A)とは、光がある物質を通ったときに、どのくらい光が吸収されたかを示す値のことで、 (1)式のように定義されます。
$$A=-log_{10}\frac{I}{I_{0}}\tag{2}$$
①核酸の抽出
DNAやRNAの濃度を測定するためには、はじめに「DNAあるいはRNAを抽出する」必要があります。DNAやRNA以外に夾雑物が含まれている場合、それらの物質によって吸光度が変化してしまいますので、DNA(RNA)以外の夾雑物をすべて分離させます。
※DNAの濃度を測定する際、夾雑物としてRNAが含まれていると、A260での吸光度の値がRNAの分だけ多く見積もってしまい、正確なDNA濃度を得ることができなくなります。
②核酸の濃度測定
一般的な吸光光度計は光路長が 1 cm で固定されていますので、サンプルとして用いる核酸の量が多量に必要になります。しかしながら、核酸試料を多量に得ることのは困難なことです。
そのため、近年ではこの問題を解決するために「Nano Drop」と呼ばれる1 μL程度の試料でも核酸を定量可能な微量吸光光度計が販売されており、核酸の定量に用いることができます。また、「Nano Drop」では非常に短時間で核酸の濃度を上記の測定原理に基づいて自動に測定することができるため、核酸の濃度測定においてよく用いられています。
2.DNAとRNAの純度測定
核酸試料を「Nano Drop」を用いて核酸の濃度を測定したとき、濃度以外にも、A260/A280という値も同時に求めることができます。
核酸は260nmの波長に吸収極大をもちますが、タンパク質は280nmの波長に吸収極大をもつことが知られています。そのため、A260/A280の値から、核酸試料中に核酸以外の物質が含まれているかどうか、すなわち、タンパク質が夾雑物として含まれていないか(核酸の純度)を調べることができます。
一般に、「DNAはA260/A280≧1.8、RNAはA260/A280≧2.0」の場合に純度が高いということがいえますので、これらの値は覚えておくとよいでしょう。
これでDNAとRNAの定量法と純度については以上です。
次は「4)ゲノムにおける遺伝子構成(反復配列・ジャンクDNA・パラログ・オルソログについて)」について学んでいきましょう。
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4)ゲノムにおける遺伝子構成(反復配列・ジャンクDNA・パラログ・オルソログについて)
1.ゲノムの遺伝子構成 ○ジャンクDNA これまで「遺伝子はタンパク質をコードするDNA配列」として定義され、それ以外のタンパク質をコードしない非コードDNAの領域は「ジャンクDNA(ガラクタという ...
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