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1)HIF-1αと低酸素応答の仕組みについて【2019年ノーベル医学・生理学賞】

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HIF-1αと低酸素応答の仕組みについて

今回は、2019年ノーベル医学・生理学賞をご受賞された「細胞が酸素濃度を感知し応答する仕組みの発見」について、その内容を解説していきたいと思います。

1. HIF-1αとは

黒アザラシ
まずは、今回の最も主要な因子である「HIF-1α」について簡単に確認していきたいと思います。

HIF1α(Hipoxia-inducible factor 1 arpha)は、低酸素誘導因子とも呼ばれ、低酸素時(酸素の濃度が低下したとき)にタンパク質の安定性が向上することによって核内へと移行し、さまざまな低酸素応答遺伝子の発現を誘導する転写因子(DNAに直接結合して遺伝子発現を調節する因子)のことです。

転写因子には、さまざまな種類がありますが、HIF-1αはbHLH塩基性ヘリックス-ループ-ヘリックス)というモチーフをもつ転写因子なので、DNAへの結合には2量体の形成が必要になります。

HIF-1αは主にHIF-1βARNTとも呼ばれます)とヘテロ2量体を形成することによって、標的遺伝子の低酸素応答配列HRE:Hypoxia Response Element)に結合して遺伝子発現を誘導します。

2. 低酸素時にHIF-1αのタンパク質の安定性が向上する仕組み

○通常の酸素濃度では

このHIF-1αという転写因子は、通常の環境下(通常の酸素濃度)ではタンパク質へと翻訳された後、HIF-1αのプロリン残基がPHD(Prolyl Hydroxylase Domain-Containing Protein)と呼ばれる酵素によって水酸化されます。

このPHDは、酸素(O2)を補因子としてHIF-1αのプロリン残基の水酸化しますので、酸素が十分に存在するときにのみ、HIF-1αを分解の方向へともっていくことができます。

このようにして水酸化されたHIF-1αは、VHL(von Hippel-Lindau tumor suppressor)と呼ばれる酵素(E3ユビキチンリガーゼ)によってユビキチン化を受けます。

ユビキチン化されたタンパク質は、プロテアソーム系によって速やかに分解されますので、通常の環境下ではHIF-1αのタンパク質量は低いレベルで維持されています。

※ユビキチン-プロテアソーム系によるタンパク質分解については「5)細胞内のタンパク質分解システム(ユビキチン-プロテアソーム系とオートファジー)」で詳しく解説していますので、よければ見てみてください。

PHD・・・HIF-1αを水酸化する酵素
VHL
・・・水酸化されたHIF-1αをユビキチン化する酵素

低酸素では

一方で、低酸素条件下では、酸素(O2)を補因子とするPHDの活性が低下しますので、HIF-1αのプロリン残基が水酸化されにくくなります。

このようにしてHIF-1αが水酸化されにくくなると、E3ユビキチンリガーゼであるVHLによるユビキチン化も阻害されますので、低酸素下ではHIF-1αのタンパク質は安定化し、核内へと移行することで標的遺伝子の発現を誘導できるようになります。

3. HIF-1αによる低酸素応答

HIF-1αが低酸素応答に重要であるとされる理由の一部には、HIF-1が赤血球を増やす(酸素運搬能の増加)、血管新生の促進(酸素運搬能の増加)、解糖系の活性化(嫌気的呼吸の増加)、ミトコンドリア活性の抑制(好気的呼吸の減少)などに関与する遺伝子を標的としていることがあげられます。

HIF-1が酸素濃度を感知し応答する仕組みの発見は、貧血やがんなどの多くの疾患の治療薬などの開発にもつながるということで、多くの注目を浴びています。

4. 2019年ノーベル医学・生理学賞のご受賞

この「細胞が酸素濃度を感知し応答する仕組みの発見」は、2019年のノーベル医学・生理学賞の対象となっており、この賞にはハーバード大学のケリン教授、オックスフォード大学のラトクリフ教授およびジョンズ・ホプキンズ大学のセメンザ教授の3名がご受賞されました。

セメンザ教授は、エリスロポエチン(赤血球産生を促進する造血ホルモン)の産生を促進する転写因子としてHIF-1を同定し、さらにHIF-1がHIF-1αとHIF-1β(ARNT)という2量体から構成されていることを見つけました。

ラトクリフ教授とケリン教授は、HIF-1αが酸素濃度が十分あるときにVHLによって分解されること、さらにHIF-1αがVHLによる分解を受けるためには、プロリン水酸化酵素(PHD)によるHIF-1αのプロリン残基の水酸化が必要であることを見つけました。

HIF-1αと低酸素応答の仕組みについてはこれで以上です。

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