1.トリアシルグリセロールの分解
全身の末梢組織におけるエネルギー源としての脂肪酸の大部分は、脂肪組織におけるトリアシルグリセロール(中性脂肪)の加水分解によって血中に放出されたものです。血中に放出されたトリアシルグリセロールは、リパーゼという酵素の働きによって分解され、脂肪酸とグリセリンを生じます。
グリセリンはグリセロール3-リン酸を経てジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)になることで、解糖経路に入って代謝されます。一方で、脂肪酸はミトコンドリアに運ばれた後、β酸化によってアセチルCoAに分解され、クエン酸回路を経てエネルギーに変換されます。
リパーゼとは、脂質のエステル結合を加水分解する酵素のことで、一般的には中性脂肪とも呼ばれるトリアシルグリセロール(グリセロールの脂肪酸エステル)を分解することによって脂肪酸を遊離させます。
2.脂肪酸の活性化とミトコンドリアへの輸送
脂肪酸の活性化
脂肪酸はそのままの状態ではエネルギー源として用いることができません。細胞質の脂肪酸はまず、アシルCoAシンテターゼという酵素によってアシルCoAに変換されます。このアシルCoAが、脂肪酸の「活性化」された状態になります。
※シンターゼではなく、シンテターゼであることに注意しましょう。ここでのシンテターゼとは、ATPのエネルギーを利用する合成酵素のことです。
この過程では、ATPがエネルギーとして用いられますが、ADPとPiが生成されるのではなく、AMPとPPiが生成されているため、実質的に2分子分のATPが消費されていることになります。
ミトコンドリアへの輸送
哺乳類の場合、血中から細胞質へ取り込まれた脂肪酸は、β酸化が行われる場であるミトコンドリアへと輸送されなければなりません。しかし、アシルCoAはミトコンドリア内膜を通過することができません。そこで、一旦、カルニチンと結合してからミトコンドリアのマトリクス内へと取り込まれ、再びアシルCoAに再生されています。(アシルカルニチンはミトコンドリア内膜を通過することができます。)
まず、アシルCoAの脂肪酸部分が、カルニチンへと転移されてアシルカルニチンとなります。この反応はカルニチンアシルトランスフェラーゼという酵素によって行われます。
ミトコンドリアのマトリクス内に入ったアシルカルニチンは、CoAと反応してアシルCoAに戻ります。
上図はイメージ図です。実際には、アシルCoAはミトコンドリア外膜に埋まっているカルニチンアシルトランスフェラーゼⅠ(長鎖脂肪酸に対して特異的であることからカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼⅠとも呼ばれる)によってアシルカルニチンに変換された後、ミトコンドリア内膜のトランスロカーゼ(カルニチンアシルカルニチントランスロカーゼ)によってカルニチンとの対向輸送が行われます。このようにしてミトコンドリアのマトリクスへと取り込まれたアシルカルニチンは、アシルカルニチントランスフェラーゼⅡ(カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ Ⅱとも呼ばれる)によってアシルCoAに戻されています。
3.脂肪酸のβ酸化
ミトコンドリアに取り込まれた脂肪酸は、「酸化→水和→酸化→チオール開裂」という一連の流れで、2炭素単位ずつが分解されアセチルCoAを生じます。この過程を脂肪酸のβ酸化といいます。
β酸化
まず、アシルCoAは、アシルCoAデヒドロゲナーゼによって酸化されて、trans-Δ2-エノイルCoAに変換されます。この過程では、Q(ユビキノン)が還元されてQH2(ユビキノール)が生成されます。
次に、trans-Δ2-エノイルCoAは、2-エノイルCoAヒドラターゼによって水和されて、L-3-ヒドロキシアシルCoAに変換されます。
その後、L-3-ヒドロキシアシルCoAは、L-3-ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼによって酸化されて、3-オキソアシルCoA (一般名)に変換されます。この過程では、NAD+が還元されてNADHが生成されます。
最後に、3-オキソアシルCoAチオラーゼ(アセチルCoACアシルトランスフェラーゼ)によってチオール開裂が起こり、2炭素分が短くなったアシルCoAとアセチルCoAに変換されます。
ちなみに、哺乳類以外の真核生物では、ペルオキシソームにおいてβ酸化が行われています。
4.脂肪酸のβ酸化によるATP合成量
ステアリン酸のβ酸化
ステアリン酸(C18の飽和脂肪酸)を例として、β酸化によるATP合成量を確認していきましょう。
ステアリン酸のβ酸化を化学式で表すと以下の式のようになります。
ステアリン酸のβ酸化の過程では、9分子のアセチルCoA、8分子のQH2および8分子のNADHが生成されることがわかります。
「2)グルコース1分子あたりのATP合成量(計算)」で解説したように、1分子のQH2からは1.5ATP、1分子のNADHからは2.5ATPが生成されます。
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2)グルコース1分子あたりのATP合成量(計算)
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また、1分子のアセチルCoAがクエン酸回路で代謝されると、3分子のNADH、1分子のQH2および1分子のGTPが生成されることから、
の計10ATPが、1分子のアセチルCoAの分解によって得られます。
これらのことを踏まえると、ステアリン酸のβ酸化(8サイクルのβ酸化)で生じるATPの合成量は以下のようになります。
ちなみに、グルコース3分子(18炭素)では、3×32=96ATPが生成されますが、これはステアリン酸のβ酸化の約80%ほどであることがわかります。
これで脂肪酸のβ酸化については以上です。
次は「3)脂肪酸合成とβ酸化の違い」について学んでいきましょう。
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3)脂肪酸合成とβ酸化の違い
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