今回はクエン酸回路の調節について学んでいきましょう。
1.クエン酸回路の調節
クエン酸回路の調節として覚えておくことが望まれるのは、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体、クエン酸シンターゼ、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体の調節です。
ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体は正確にはクエン酸回路の酵素ではありませんが、クエン酸回路の最初の反応で利用されるアセチルCoAの主要な供給源となっている重要な酵素なので、合わせて覚えておくことが望まれます。
ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体の調節
まずはピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体の反応を再確認しておきましょう。
ピルビン酸からアセチルCoAへの変換はこちら↓
ピルビン酸デヒドロゲナーゼは、3種類の酵素(E1~E3)からなっていました。
これらのうち、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体のE2やE3は、基質であるピルビン酸や補酵素A(HS-CoA)によって活性化され、生成物であるアセチルCoAやNADHによって阻害されています。
つまり、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体は
アセチルCoAが多く、NADH/ NAD+の比が高いようなエネルギー源が豊富であるときには、クエン酸回路を阻害することで、エネルギーの生成を急がず、別の回路を活性化する方向にシフトしていると考えられます。
実際には、これらの調節はピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体のE1の化学修飾によって行われています。アセチルCoAやNADH/NAD+が高いときには、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体のE1はリン酸化されることで不活性化されています。(補酵素Aなどの基質が多い条件下では脱リン酸化されることで活性化されます。)
化学修飾の中でも特に、リン酸化によるタンパク質の活性調節は非常に重要で、リン酸化されることによって活性化されるタンパク質もあれば、リン酸化されることで不活性化されるタンパク質もあります。
それでは、クエン酸回路の3つの酵素の調節を確認していきましょう。
クエン酸シンターゼの調節
イソクエン酸シンターゼはNADHによって阻害されます。
NADHが豊富に存在するということは、エネルギー源が十分にあることを意味しますので、クエン酸回路でさらなるNADHを生成することを抑制していると考えられます。
イソクエン酸デヒドロゲナーゼの調節
イソクエン酸デヒドロゲナーゼはCa2+とADPによって活性化され、NADHによって阻害されます。
ADPについては、ATPが消費によってADP濃度が上昇しますので、ATP、つまりエネルギー生成を亢進させるためにクエン酸回路を活性化していると考えられます。
α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体の調節
α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体はCa2+によって活性化されます。
※α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体はピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体と同様に、3種の酵素からなる巨大な多酵素複合体ですが、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体とは違った調節のされ方をしていることを覚えておきましょう。(α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体はリン酸化による化学修飾の調節は受けていないとされています)
まとめ
クエン酸回路における調節段階は
・クエン酸シンターゼ
・イソクエン酸デヒドロゲナーゼ
・α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体
の3つが行う反応となっていましたが、イソクエン酸デヒドロゲナーゼとα-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体は、両者ともに酸化的脱炭酸の反応でアセチルCoAの実質的な分解(CO2放出)を行う反応となっています。また、クエン酸シンターゼはアセチルCoAを利用する最初の段階になっています。これらのことから、特に重要な反応においてクエン酸回路の調節は行われていることがわかります。
クエン酸回路の調節についてはこれで以上です。
次は「1)電子伝達系の役割とプロトン勾配」について学んでいきましょう。
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