第39回管理栄養士国家試験(63問目)
食べ物と健康
第39回【63問目】食品の保存に関する記述である。最も適当なのはどれか。1つ選べ。
(1) 質量パーセント濃度が同一であれば、ショ糖より食塩の方が浸透圧を高める効果が大きい。
(2) レトルト食品の殺菌は、65°Cで30分以上行う。
(3) 水分活性0.9 以上において、ほとんどの微生物の増殖は抑制される。
(4) 無機酸の微生物増殖抑制効果は、有機酸より優れている。
(5) チルドとは、食品を半凍結状態で貯蔵することである。
厚生労働省 第39回管理栄養士国家試験の問題(午前の部)(2025) .
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001428960.pdf
第39回【63問目】食品の保存に関する問題、解説スタート!
この問題の正解は、(1) 質量パーセント濃度が同一であれば、ショ糖より食塩の方が浸透圧を高める効果が大きい。 です!


第39回【63問目】食品の保存に関する記述である。最も適当なのはどれか。1つ選べ。
⭕️(1) 質量パーセント濃度が同一であれば、ショ糖より食塩の方が浸透圧を高める効果が大きい。
同じ重さ(質量パーセント濃度)で比べると、食塩(塩化ナトリウム)の方がショ糖(砂糖)よりも水に溶けたときにたくさん粒子に分かれるため、水を引っ張る力(浸透圧)が大きくなります。
浸透圧とは??
浸透圧とは、「半透膜を隔てて水が移動しようとする力」のことです。難しく聞こえるかもしれませんが、簡単に言えば、「薄い方から濃い方へ水を引っ張る力」だと理解してください。

あなたは、部屋の真ん中に特別な壁(半透膜)を立てて、その壁の片側にはただの水(薄い溶液)を、もう片側には砂糖をたっぷり溶かした水(濃い溶液)を用意しました。
この特別な壁(半透膜)は、水は通しますが、砂糖のような大きな分子は通しません。
するとどうなるでしょう?時間が経つと、砂糖水の方へ、ただの水がどんどん移動していくのが見えます。これは、砂糖水の方が「もっと水を欲しがっている」状態だからです。この「水を引っ張る力」が浸透圧なんです。
食塩(NaCl)は水に溶けると、ナトリウムイオンと塩化物イオンの2つの粒子に電離します。
一方、ショ糖は水に溶けてもほとんど電離せず、1つの分子のまま存在します。
浸透圧は溶液中の溶質粒子の数に比例するため、同じ質量パーセント濃度であれば、電離する食塩の方がショ糖よりも多くの粒子を水中に放出し、結果としてより高い浸透圧を示します。この原理は、塩漬けや砂糖漬けといった食品保存に応用されています。
✖️(2) レトルト食品の殺菌は、65°Cで30分以上行う。
レトルト食品の殺菌は、もっと厳しい条件で行われます。120°C以上で4分間以上など、中心部の殺菌が必要なボツリヌス菌芽胞も死滅させるための条件です。
レトルト食品は、密封された容器(レトルトパウチなど)に入れた状態で高圧・高温で殺菌する「レトルト殺菌」が行われます。
レトルト殺菌
この殺菌条件は、一般細菌だけでなく、特に食品中で増殖すると致死性の毒素を産生するボツリヌス菌の芽胞を死滅させることを目的としており、通常120℃以上で4分間以上の加熱(F値と呼ばれる殺菌指標で管理)が求められます。
65℃で30分程度の加熱は、牛乳のパスツール殺菌(低温長時間殺菌)などに用いられる条件で、一般的なレトルト食品の殺菌基準には遠く及びません。
✖️(3) 水分活性0.9 以上において、ほとんどの微生物の増殖は抑制される。
水分活性が0.9以上では、むしろ多くの微生物が活発に増殖できる状態です。微生物の増殖が抑制され始めるのは、もっと水分活性が低い値(例:0.85以下)からです。
水分活性(Aw)は、食品中の自由水の割合を示す指標で、微生物の増殖に深く関係します。ほとんどの細菌はAw 0.90以上で増殖が可能であり、Awが0.90を下回ると、多くの細菌の増殖は抑制されます。
酵母やカビは細菌よりも低いAwで増殖できますが、それでもAw 0.85以下で増殖が困難になるものが多いです。Aw 0.90以上では、水分が多い状態であるため、微生物は活発に活動することができます。
✖️(4) 無機酸の微生物増殖抑制効果は、有機酸より優れている。
微生物の増殖を抑える効果は、無機酸よりも有機酸の方が一般的に優れています。
有機酸(酢酸、乳酸、クエン酸など)は、
- 細胞膜を透過して微生物の細胞内に入り込み
- 細胞内のpHを低下させ
- 代謝酵素の働きを阻害すること
この3つができることで、微生物の増殖を効果的に抑制ができる
一方、無機酸(塩酸、硫酸など)は、細胞膜を透過しにくいため、主に食品全体のpHを下げることで微生物の増殖を抑制しますが、細胞内での直接的な作用は有機酸ほど期待できません。
✖️(5) チルドとは、食品を半凍結状態で貯蔵することである。
チルドとは、食品が凍らない程度の0℃~マイナス数℃の範囲で冷やして保存することです。半凍結状態で貯蔵するのは「パーシャルフレッシュ」や「氷温貯蔵」などと呼ばれる状態です。

チルド貯蔵(冷蔵)
チルド貯蔵は、私たちが普段使っている冷蔵庫での保存に近いイメージです。
- 温度帯: 0℃〜数℃(一般的には0℃〜4℃程度)
- 特徴:
- 食品が凍らない程度の低温で保存します。
- 低温で微生物の増殖や食品の化学変化を抑え、鮮度をある程度保ちます。
- 多くの生鮮食品(野菜、果物、肉、魚、乳製品など)の保存に用いられます。
- 完全に微生物の活動を止めるわけではないので、長期保存には向きません。
ポイント: 冷蔵庫で食品を冷やす感覚ですね!凍らせずに鮮度を保つのがチルドです。
パーシャルフレッシュ貯蔵

パーシャルフレッシュ貯蔵は、チルドよりもさらに低い温度で保存する技術です。
- 温度帯: -3℃〜0℃(食品が少し凍るか凍らないかのギリギリの温度)
- 特徴:
- 食品の一部が凍り始めるか、ごくわずかに氷の結晶ができる程度の温度で保存します。
- 食品細胞の大部分が凍結しないため、解凍時のドリップ(水分や栄養分が流れ出ること)が少なく、品質の劣化を抑えられます。
- 微生物の活動をチルドよりもさらに抑制できるため、チルドよりも長期間の鮮度保持が可能です。
- 主に肉や魚などの生鮮食品の鮮度保持に利用されます。
ポイント: "パーシャル"は「部分的に」という意味。完全に凍らせずに、おいしさを保ちながら鮮度をキープする賢い方法です!
氷温貯蔵
氷温貯蔵は、パーシャルフレッシュと似ていますが、より特別なメカニズムを利用した貯蔵方法です。
- 温度帯: 0℃〜氷点下(食品が凍り始める直前の温度、-1℃〜-3℃程度が一般的)
- 特徴:
- 食品が凍り始めるギリギリの温度で保存します。食品は凍結点に達してもすぐに凍結せず、過冷却状態になります。
- この状態では、食品自身が凍結から身を守ろうとして、アミノ酸や糖などの不凍物質を生成します。
- これにより、旨味成分(アミノ酸など)が増加したり、食感が向上したりするなど、品質が向上する場合があります。
- 微生物の活動も抑制され、チルドやパーシャルフレッシュよりもさらに長期保存が可能です。
- 肉、魚、野菜、果物など、幅広い食品に応用されています。
ポイント: 氷温貯蔵は、凍らせないことで、食品本来の力を引き出し、さらに美味しく、長く保存できる技術なんです!まるで食品が自分で熟成するようなイメージですね。

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