In Vivo, In Vitro, In Situ, Ex Vivoの違いを解説
科学論文やニュースでよく見かける「In Vivo」とか「In Vitro」とか「In Situ」とか「Ex Vivo」って言葉、なんとなく意味はわかるけど、具体的にどう違うの?そう思ったことはありませんか?
ラテン語が語源の「実験場所」キーワード
これらの用語はすべてラテン語が起源です。ちょっと難しそうに聞こえるかもしれませんが、それぞれの言葉が持つイメージをつかめば、すぐに覚えられますので、解説していきたいと思います。
本記事では、それぞれの違いを解説するとともに、具体例や使用シーン、名前の由来について紹介していきます。
1. In Vivo(イン ヴィーヴォ):「生体の内で」
意味と名前の由来
「In Vivo」はラテン語で「生命の中で」や「生体の中で」という意味です。
まさに、生物が生きている体の中で起きていることを調べる実験や観察を指し、ヒトやマウス、ラットなどの生きた動物を対象にした研究がこれに当たります。

特徴とメリット
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- リアルそのもの!:実際の生物の体の中で何が起こるかをそのまま観察できますので、最も現実に近いデータが得られます。薬が全身にどのように作用するか、病気がどのように進行するかなど、複雑な生体反応をそのまま捉えることができます。
- 全身のつながり:一つの細胞や臓器だけでなく、体のあらゆる部分がどう相互作用し、代謝されるのか、全体的な視点で研究できます。
「In vivo実験」の具体例
- 薬が効くか、副作用は?:新薬を開発する際、マウスやラットなどを用いて、病気への効果や体に悪い影響がないかを確認する前臨床試験。
- 病気のモデル研究:特定の遺伝子を操作したマウスを作り、ヒトの病気が体の中でどのように進んでいくかを調べる研究。
- 臨床試験:開発された薬や治療法を、実際にヒトの患者さんで試して効果や安全性を確認する臨床試験(治験)。
2. In Vitro(イン ヴィトロ):「試験管内などで」
意味と名前の由来
「In Vitro」はラテン語で「ガラスの中で」という意味です。
文字通り、試験管やシャーレ、フラスコといった「ガラス(またはプラスチック)の容器の中」で行われる実験を指します。細胞や分子レベルでの反応を観察する際に使われます。

特徴とメリット
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- 条件を完全コントロール!:温度やpH、栄養状態などを研究者が思い通りに設定できるので、特定の要因だけを詳細に研究できます。例えば、「この薬は特定の細胞にだけ作用するのか?」といった疑問をピンポイントで調べられます。
- お手軽で安全:生きた動物を使わないため、倫理的な問題が少なく、コストも抑えられます。実験の再現性も高めやすいです。
- 細かいメカニズムの解明:分子や細胞のレベルで、何がどうなっているのか、そのメカニズムを深く探るのに向いています。
「In vitro実験」の具体例
- 細胞に薬を!:がん細胞をシャーレで培養して、新しい抗がん剤を少量加えてその効果を調べる実験。
- DNAを編集!:CRISPR-Cas9などの遺伝子編集技術を使って、試験管の中で遺伝子をゲノム編集する実験。
- タンパク質の働きを分析:酵素と基質を混ぜて、その反応速度や解離定数などを調べる実験。
3. In Situ(イン シトゥ):そのまま「その場で」
意味と名前の由来
「In Situ」はラテン語で「その場で」という意味です。
細胞や組織を、体から取り出した後も、その本来の位置関係や構造を保ったまま観察・実験する手法を指します。

特徴とメリット
- 位置情報が命!:細胞がどの組織のどこに位置していたか、周囲の細胞とどう関係していたかなど、本来の環境情報を失わずに研究できます。
- ミクロな状況の把握:特定の細胞や分子が、実際の組織の中でどう振る舞っているかを詳細に観察できます。
- 病理診断の基本:病気の組織を顕微鏡で観察する際に、細胞の配列や異常な構造をそのまま見ることができます。
「In Situ実験」の具体例
- 病気の組織を診断:患者さんから採取した組織を薄くスライスし、顕微鏡でがん細胞の広がりや特徴を調べる病理検査。
- DNAやRNAの位置を探す:組織の細胞の中で、特定の遺伝子がどこに存在しているか、特殊なプローブを使って光らせて特定する実験。これを「in situハイブリダイゼーション」と言います。
- 免疫染色の定番:組織内の特定のタンパク質を、抗体を使って色をつけたり光らせたりして、どこにあるか、どれくらいあるかを調べる。
4. Ex Vivo(エクス ヴィーヴォ):「生体外で」
意味と名前の由来
「Ex Vivo」はラテン語で「生体外で」という意味です。
これは「In Vitro」と似ていますが、大きな違いがあります。生きた体から臓器や組織全体、あるいはその一部を取り出し、できるだけ生体に近い状態を保ちながら実験を行う手法です。

特徴とメリット
- In VivoとIn Vitroのいいとこ取り!:生体から取り出したばかりなので、In Vivoに近い生理的な特性を保ちつつ、In Vitroのように外部から条件を比較的自由に制御できます。
- 複雑な相互作用も一部再現:臓器や組織レベルでの細胞間の相互作用や微細な環境を、体外で再現して研究できます。
- 倫理的・技術的ハードルの低減:生きた個体全体を使うIn Vivoよりも倫理的な制約が少なく、また環境制御がしやすいため技術的な難易度も下がります。
「Ex vivo実験」の具体例
- 摘出した臓器で薬の反応を調べる:手術で取り出した臓器の一部(例:心臓の組織)を培養液に浸し、薬を加えてその収縮反応を観察する薬理試験。
- 移植臓器の機能評価:臓器移植を行う前に、ドナーから提供された臓器を体外で一時的に保存・灌流しながら、その機能が正常かを評価する。
- 脳スライス実験:マウスの脳を薄くスライスし、人工脳脊髄液に浸して、神経細胞の活動を記録する電気生理学実験。
結局、どう使い分けるの?
これらの用語は、研究の目的や段階によって使い分けられます。
まとめ
「In Vivo」「In Vitro」「In Situ」「Ex Vivo」は、それぞれ異なる得意分野を持つ実験のアプローチです。どれが優れているというわけではなく、研究の問いに最も適した方法を選ぶことが重要になります。
これらの違いを理解することで、論文や研究発表の内容がより深く、正確に読み解けるようになるはずです。生命科学の学びを深める上で、ぜひこれらのキーワードをマスターしてくださいね!