新型コロナウイルスのワクチン開発について
今回は、アメリカの製薬企業「イノビオ(INOVIO)社」が、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対するワクチンとして開発中の「INO-4800」に関連した文献(Nature Communicationsに掲載)を紹介していきたいと思います。
新型コロナウイルスに対して、どのような種類のワクチンが開発中であるか?
まずは、現在どのようなワクチンが開発されているのかをみていきましょう。
従来のワクチン開発では、ウイルスタンパク質をもとに無毒化ワクチンや弱毒化ワクチンを作製していましたが、一般的にワクチンの研究開発には、多大な時間が必要になります。
そこで、現在新型コロナウイルスに対するワクチンとして開発中のワクチンの中には、DNAやmRNAなどの核酸をベースにした核酸ワクチンと呼ばれるものがあり、これらはすでに臨床研究が行われています。
今回ご紹介する「INO-4800」というワクチンは、現在臨床段階にあるDNAワクチンになります。
「INO-4800」は臨床研究のどの段階まで進んでいるのか?
薬の開発段階には、前臨床試験、臨床試験、承認申請の3つの段階があります。
臨床試験には、さらに第1相臨床試験、第2相臨床試験、第3相臨床試験の3つがあります。
第1相臨床試験:主に健康な人を対象に、薬の安全性や薬物動態などを調べる
第2相臨床試験:少人数の患者を対象に、薬の安全性や有効性などを調べる
第3相臨床試験:大規模の患者を対象に、薬の有効性などを調べる
ポイント
薬物動態とは、薬物が体内に投与されてから排泄されるまでの過程のことをいいますが、主に、 吸収(absorption)分布(distribution)、代謝(metabolism)、排泄(excretion)のことをいいます(これらは頭文字をとってADMEと呼ばれています)。
6月25日現在、イノビオ(INOVIO)社のDNAワクチン「INO-4800」は、第1/第2相臨床試験の段階にあります。
「INO-4800」の前臨床試験(マウスとモルモット)
それでは、Nature Communicationsに掲載された、イノビオ(INOVIO)社のDNAワクチン「INO-4800」に関する文献について確認していきます。
SARS-CoV-2がヒトに感染する時には、新型コロナウイルスの表面にあるスパイクタンパク質が、ヒトがもつACE2受容体(アンジオテンシン変換酵素)に結合することで、感染が起こることがわかっています。
そこで、イノビオ(INOVIO)社は、このスパイクタンパク質のDNA配列をもとに、INOVIO独自の最適化アルゴリズムを使用して、「INO-4800」を迅速に設計しました。
マウス骨格筋に「INO-4800」をエレクトロポレーション法によって導入すると、導入後の14日目には、これらのマウスの血清には、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイクタンパク質に結合するIgG抗体が産生されていることが観察されました。
さらに実験を行い、「INO-4800」で免疫したマウス由来の血清には、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する中和抗体が産生されていることがわかりました。
上記の結果は、モルモットにおいても同様の結果が観察されています。
さらに重要なことに、「INO-4800」で免疫したマウス由来の血清から精製したすべてのIgG抗体は、ACE2受容体とスパイクタンパク質の結合に競合したことも示されています。
これは、新型コロナウイルスの感染を防ぐことができる可能性を強く示唆しています。
加えて「INO-4800」で免疫したマウスとモルモットの肺からも、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する抗体が検出でき、また、スパイクタンパク質に対するT細胞免疫反応も観察されました。
以上のようなデータから、「INO-4800」は脅威を振るっているCOVID-19に対するワクチンの有力な候補になり得ることがわかります。
現在進行中の第1/第2相臨床試験の結果と今後の進展が待ち遠しく思います。
【参考文献】
Smith, T.R.F., Patel, A., Ramos, S. et al. Immunogenicity of a DNA vaccine candidate for COVID-19. Nat Commun 11, 2601 (2020). https://doi.org/10.1038/s41467-020-16505-0
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