今回はアルコール発酵と乳酸発酵に関わる酵素とその反応について学んでいきましょう。
1.発酵とは
まずは発酵の意味を確認しておきましょう。
グルコースをピルビン酸まで分解する「解糖」の段階でATPを得ることはできますが、同時に解糖ではNAD+を消費する仕組みになっているので、解糖を常に動かし続けるためには「NAD+の再生」を行う必要があります。
このため発酵では解糖で生じたピルビン酸をエタノールや乳酸に変換する過程で「NAD+の再生」を行います。
好気呼吸と発酵の違い
まずは好気呼吸の反応式を見てみてみましょう。
好気呼吸は「解糖→クエン酸回路→電子伝達系」の過程でATPを生じますが、酸素は必要であることがわかります。
一方で発酵では「解糖→エタノールor乳酸」の過程でATPを生じますが、酸素がは必要ないことがわかります。
※ATPについては反応式に含めていませんが、理論的にはグルコース1分子あたり、好気呼吸では32ATPが得られますが、発酵では2ATPしか得られません。
好気呼吸で得られるATPの数が32ATPになる理由については「2)グルコース1分子あたりのATP合成量(計算)」で解説しています。
アルコール発酵
それではアルコール発酵に関わる酵素とその反応についてみていきましょう。
アルコール発酵を行う生物としては酵母が有名です。
①「ピルビン酸デカルボキシラーゼ」によってピルビン酸はアセトアルデヒドに変換されます。
→デカルボキシラーゼは脱炭酸酵素のことで、この段階でCO2を生じます。
②「アルコールデヒドロゲナーゼ」によってアセトアルデヒドはエタノールに変換されます。
→デヒドロゲナーゼは脱水素酵素のことで、この段階でNADHが酸化されてNAD+を生じます。
※ちなみにこの反応は逆反応から名前がついています。
反応 グルコース+2ADP+2Pi+2H→2エタノール+2CO2+2ATP+2H2O
アルコール発酵の反応の流れは下図のようになっています↓
乳酸発酵
次は乳酸発酵に関わる酵素とその反応についてみていきましょう。
乳酸発酵を行う生物としては乳酸菌(嫌気性細菌の一種)が有名です。
①「乳酸デヒドロゲナーゼ」によってピルビン酸はL-乳酸に変換されます。
→デヒドロゲナーゼは脱水素酵素のことで、この段階でNADHが酸化されてNAD+を生じます。
※ちなみにこの反応も逆反応から名前がついています。
反応
グルコース+2ADP+2Pi→2L-乳酸+2ATP+2H2O
乳酸発酵の反応の流れは下図のようになっています↓
ピルビン酸から乳酸への還元は、乳酸菌以外でも非常によく行われています。
哺乳類の筋肉では、激しい運動(無酸素運動)時にクエン酸回路や電子伝達系が止まってしまうため、好気呼吸によってATPを生じることができなくなります。このときATPの枯渇を防ぐために行われるのが、筋肉におけるこの乳酸を生じる反応になります。
筋肉はグリコーゲンを貯蔵しているので、グリコーゲン分解によって生じたグルコース1-リン酸をグルコース6-リン酸に変換してこの反応を行いますが、このとき生じた乳酸は「コリ回路」によって再びグルコースに変換されます。
※400m走などで乳酸が生じるのはこの反応によるものです。ちなみに長距離走などの有酸素運動では、主に脂肪酸分解によって生じるエネルギーを利用しています。これは持久運動になると糖よりも脂質をエネルギー源として用いる方向にシフトすることを意味します。
筋肉以外で乳酸を生じる場所としては赤血球も有名なのでおさえておきましょう。(赤血球はミトコンドリアを持たないので)
アルコール発酵と乳酸発酵についてはこれで以上です。
次は「5)解糖の調節」について学んでいきましょう。
-
5)解糖の調節
今回は解糖の調節について学んでいきましょう。 解糖の調節段階は主に不可逆反応にありますので、どの反応が不可逆反応であったかを確認しながら解説していきます。 1.解糖の調節 解糖の不可逆反応 まずは解糖 ...
続きを見る