遺伝子工学

トランスジェニックマウスとは?【過剰発現マウスの作製方法①】

Sponsored Link

トランスジェニックマウスとは?【過剰発現マウスの作製方法①】

トランスジェニックマウス(Tgマウス)とは?

トランスジェニックマウス(Transgenic mouse: Tgマウス)とは、外来遺伝子を人工的に導入し、その遺伝子が発現するように遺伝子組換えしたマウスのことをいいます。

この技術は、遺伝子の機能を解明したり、病気のモデルを作製したりするために欠かせない手法です。

特に、単に「トランスジェニックマウス」というと、特定の遺伝子を過剰に発現させた「過剰発現マウス」のことを指すことが多いです。

それでは、実際にトランスジェニックマウス(過剰発現マウス)の作製方法について確認していきましょう。

トランスジェニックマウス(過剰発現マウス)の作製方法

トランスジェニックマウス(過剰発現マウス)は以下のような手順で作製できます。

1. 目的遺伝子の選択と設計

  • ターゲット遺伝子: 過剰発現させたい目的の遺伝子を選びます。
  • プロモーターの設計: 遺伝子の発現量を調整するため、適切なプロモーターを選択します。

✔️全身で発現させるプロモーター(例: CAGプロモーター)

✔️特定の組織で発現させるプロモーター(例: 肝臓や神経特異的プロモーター)

2. 遺伝子クローニング

選択した遺伝子とプロモーターを発現ベクター(プラスミドDNA)にクローニングします。

3. 受精卵への導入

  • クローニングしたプラスミドDNA由来のDNA(プロモーターと目的遺伝子+PolyA配列)をマウスの受精卵に注入します。これを「マイクロインジェクション」といいます。
  • この受精卵を仮親のマウスに戻し、着床・出産を待ちます。

4. 遺伝子導入の確認

生まれたマウスのDNAを調べ、目的の遺伝子が導入されているかを確認します。

過剰発現の評価方法

トランスジェニックマウス(過剰発現マウス)が目的の遺伝子を正しく過剰発現しているかを確認することは、実験成功の鍵です。主な評価方法を以下に記載します。

1. 遺伝子発現レベルの確認

目的の遺伝子が期待通りに過剰発現しているかをRT-qPCR法などで確認します。

  • RT-qPCR(リアルタイム定量PCR)法

✔️RNAを抽出してcDNAを合成し、目的遺伝子の発現量を定量的に測定。

✔️内在性の遺伝子発現と比較することで、過剰発現の度合いを評価。

✔️特定の組織や臓器での発現も確認可能。

RT-qPCRについては、「3)リアルタイムPCRによる定量PCR」で解説をしていますのでご覧ください。

合わせて読みたい
3)リアルタイムPCRによる定量PCR

1.リアルタイムPCRとは  リアルタイムPCRとは、PCRによる増幅産物をリアルタイムでモニタリングすることで、増幅率に基づいて初期のDNAの定量ができる定量PCRのことです。  リアルタイムRT- ...

続きを見る

2. タンパク質レベルの確認

遺伝子がタンパク質レベルで過剰発現されているかをウェスタンブロット法免疫染色で確認します。

  • ウエスタンブロット法

✔️特異的な抗体を使用して、目的タンパク質の発現量を測定。

✔️組織ごとの発現量を比較可能。

ウェスタンブロット法については、「2)ウエスタンブロッティング」で解説をしていますのでご覧ください。

合わせて読みたい
2)ウエスタンブロッティング

1.ウエスタンブロッティング(WB)とは  ウエスタンブロッティングとは、SDS-PAGEによって分離したタンパク質を疎水性膜(メンブレン)に転写し、任意のタンパク質に対する抗体を用いて特定のタンパク ...

続きを見る

  • 免疫染色

✔️組織切片を用いて、目的タンパク質の位置や量を視覚的に確認。

✔️発現が特定の細胞や部位に限定されているかを解析する際に有効。

3. 機能的な評価

トランスジェニックマウス(過剰発現マウス)の作製が成功していれば、一般的には、作製したマウスの表現型解析生理学的・病理学的解析を実施します。

これによって、遺伝子の機能に関する手がかりが得られます。

  • 表現型解析

✔️体重、臓器サイズ、行動、代謝など、全身的な影響を観察。

  • 生化学的解析

✔️血液中の代謝物やホルモン濃度を測定して、過剰発現が代謝に与える影響を評価。


過剰発現マウス作製の注意点

トランスジェニックマウス(過剰発現マウス)を使用する際には、以下の注意点を考慮する必要があります。

1. 発現レベルの過剰さ

  • 過剰発現のレベルが生理的レベルを極端に超える場合と生理的レベルでの過剰発現では、結果に違いが生まれることが多いです。そのため、プロモーターの強度を調整し、適切な発現量を設定することが重要です。

✔️例: 生理的範囲を超えた発現が、通常では起こらない影響を引き起こすことがある。

2. 発現部位の特異性

  • 全身で発現させる場合、目的の組織以外にも影響を及ぼす可能性があります。

✔️対策: 組織特異的なプロモーターを使用しましょう。

3. 他の遺伝子への影響

  • 外来遺伝子の挿入場所が内因性の重要な遺伝子を破壊する可能性があります。

✔️解決策: 挿入部位を確認するために、PCRゲノム解析を実施しましょう。

4. 個体間のばらつき

  • 基本的には、トランスジェニックマウスは、ランダムに導入された遺伝子の挿入数や部位が個体ごとに異なります。

✔️解決策: 複数のトランスジェニック系統を作製し、比較しましょう。

5. バックグラウンドの影響

  • 使用するマウス系統の遺伝的背景が、結果に影響を与えることがあります。

✔️解決策: コントロール群として、同じ背景を持つ野生型マウスを使用しましょう。


まとめ

トランスジェニックマウス(過剰発現マウス)は、遺伝子の機能や疾患の解明にとって極めて重要な役割を果たしており、この技術は、ヒト疾患の研究や新薬の開発に大きな貢献をしています。

過剰発現マウスの評価は、遺伝子やタンパク質の発現確認だけでなく、機能的な影響まで慎重に調べる必要があります。また、実験計画の段階から、プロモーターの選択や個体間差への対応策を講じることが、信頼性の高い結果を得るために重要です。

トランスジェニックマウスとは?【過剰発現マウスの作製方法①】についてはこれで以上です。

合わせて読みたい
クロマチン免疫沈降(ChIP)の流れ
1)クロマチン免疫沈降(ChIP)の原理と概要

クロマチン免疫沈降(ChIP)法とは  クロマチン免疫沈降(Chromatin Immunoprecipitation:ChIP)法とは、あるタンパク質に対する抗体(転写因子やヒストン化学修飾に対する ...

続きを見る

Sponsored Link

-遺伝子工学