グリコーゲン代謝がインスリンやグルカゴンなどのホルモンによって調節されているように、糖新生や解糖もホルモンによる調節を受けています。
今回はそのホルモンと糖新生や解糖との関係について学んでいきましょう。
1.ホルモンによる糖新生と解糖の調節
グルカゴンによるPKAの活性化
グルカゴンは糖新生や解糖の調節に関わるホルモンとしても重要です。
「3)ホルモンによるグリコーゲン代謝の調節」において、グルカゴンがCREB(cAMP応答配列結合タンパク質)のリン酸化によって糖新生系遺伝子の発現を促進することを解説しましたが、グルカゴンは糖新生の酵素を調節することによっても糖新生を促進させます。
※遺伝子レベルで制御するかタンパク質レベルで酵素活性を調節するかの2パターンがあると考えてください
まず、グルカゴンが標的細胞のグルカゴン受容体に結合するとGタンパク質の活性化を介してアデニル酸シクラーゼによるcAMP合成を促進します。このようにして合成されたcAMPはセカンドメッセンジャーとしてPKA(プロテインキナーゼA)を活性化します。
※プロテインキナーゼAはcAMP依存性のタンパク質キナーゼのことで、cAMPを介した細胞内信号伝達系でタンパク質のリン酸化を行う酵素のことです。
糖新生と解糖の調節段階
解糖や糖新生の項目でも学びましたが、一般的に調節を受ける段階は不可逆反応を行う酵素です。
不可逆反応を行う酵素のうち、グルカゴンによる糖新生の調節を受ける酵素はフルクトース1,6-ビスホスファターゼ(F1,6BPase)で、グルカゴンによる解糖の調節を受ける酵素は6-ホスホフルクトキナーゼ(PFK)です。
糖新生におけるフルクトース1,6-ビスホスファターゼの位置はこちら↓
解糖における6-ホスホフルクトキナーゼの位置はこちら↓
フルクトース2,6-ビスリン酸による糖新生と解糖の調節
どのような酵素によってこれらの糖新生経路や解糖経路に位置する酵素が調節されるのかというと、フルクトース2,6-ビスリン酸(F2,6-BP)という物質が重要な役割を担っています。このフルクトース2,6-ビスリン酸は糖新生経路のフルクトース1,6-ビスホスファターゼ(F1,6BPase)を阻害し、解糖経路の6-ホスホフルクトキナーゼ(PFK)を活性化させる物質です。つまり、フルクトース2,6-ビスリン酸は糖新生を阻害し、解糖を活性化させる物質であるといえます。
二機能酵素によるF2,6BPとF6Pの相互変換
フルクトース2,6-ビスリン酸はフルクトース2,6-ビスホスファターゼ活性と6-ホスホフルクト2-キナーゼ活性を持つ二機能酵素によってフルクトース6-リン酸と相互変換されています。
PKAによってリン酸化される二機能酵素
グルカゴンのシグナル伝達によって活性化されたPKA(プロテインキナーゼA)は、フルクトース2,6-ビスホスファターゼ活性と6-ホスホフルクト2-キナーゼ活性を持つ二機能酵素をリン酸化します。リン酸化されると、この二機能酵素のフルクトース2,6-ビスホスファターゼ活性が上昇し、6-ホスホフルクト2-キナーゼ活性は低下します。フルクトース2,6-ビスホスファターゼ活性が上昇すると、フルクトース2,6-ビスリン酸は脱リン酸化されて、フルクトース6-リン酸に変換されることになります。
その結果、フルクトース2,6-ビスリン酸が減少し、糖新生経路のフルクトース1,6-ビスホスファターゼ(F1,6BPase)が阻害されなくなります。このような仕組みで糖新生が促進されます。
一方で、グルカゴンが存在しない場合には、フルクトース2,6-ビスホスファターゼ活性と6-ホスホフルクト2-キナーゼ活性を持つ二機能酵素がリン酸化されません。脱リン酸型の二機能酵素ではフルクトース2,6-ビスホスファターゼ活性が低下し、6-ホスホフルクト2-キナーゼ活性が上昇します。6-ホスホフルクト2-キナーゼ活性が上昇すると、フルクトース6-リン酸はリン酸化されて、フルクトース2,6-ビスリン酸に変換されることになります。
その結果、フルクトース2,6-ビスリン酸が増加し、解糖経路の6-ホスホフルクトキナーゼ(PFK)が活性化されます。このような仕組みで解糖が促進されます。
ホルモンによる糖新生と解糖の調節についてはこれで以上です。
次は「1)脂肪酸合成」について学んでいきましょう。
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