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新型コロナウイルスに再感染はするのか?(アカゲザルの研究)

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新型コロナウイルスに再感染はするのか?

今回は、「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に一度感染したことがあっても、再感染は成立するのか」というテーマで、Scienceに掲載された論文(アカゲザルでの研究)をご紹介したいと思います。

新型コロナウイルスには再感染するのか(アカゲザルの研究)

新型コロナウイルスのPCR検査と抗体検査

まずはじめに、新型コロナウイルスの検査の現状について確認していきます。

新型コロナウイルスに感染しているかどうかを調べる手法には、主にPCR検査抗体検査があります。

この両者の大きな違いは、ウイルス自体を検出するかどうかという点にあります。

新型コロナウイルスの「PCR検査」

PCR検査の場合、ウイルスのRNAの量を測定することによって、ある一定の基準以上の値が検出されれば「陽性」であると言うことができます。

PCR(polymerase chain reaction)とは、DNAポリメラーゼという酵素と目的のDNA配列を挟む1対のプライマーを使って、目的のDNA領域を増幅する反応のことを言います。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、一本鎖のRNAウイルスなのでウイルスのRNAをPCRで増幅する際には、まず、ウイルスがもつRNAをcDNA(RNAから人工的に作成した相補的なDNAのこと)へと逆転写する必要があります。

そのためには、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検出には、RT-PCRという手法が用いられています。

実際には、新型コロナウイルスのRNAをcDNAに逆転写した後に、リアルタイムPCRという手法によってcDNAを増幅させます(qRT-PCR:定量的RT-PCR)。

qRT-PCR(定量的RT-PCR)では、二本鎖DNAの鎖間に入り込む蛍光色素(SYBR Green Ⅰなどの蛍光物質)などを用いることによって、もともとあったウイルスのRNAの量を定量的に測定することができます。

※このとき、すでに研究グループなどによって発表されている新型コロナウイルスの遺伝子配列情報(データベース)をもとにプライマーを設計し、PCRで増幅することで検査しています。

新型コロナウイルスの「抗体検査」

一方、抗体検査の場合、血液中の抗体の量を測定することによって、ある一定の基準以上の値が検出されれば「陽性」であると言うことができます。

抗体が産生される仕組みを簡単に説明すると、まず、T細胞によって抗原(新型コロナウイルス)の情報が、B細胞へと伝えられます。そして、B細胞が、抗原(新型コロナウイルス)に対する抗体を多量に産生します。

抗体にはいくつかの種類がありますが、特にIgG抗体IgM抗体というのが抗体検査ではよく使用されています。

押さえておきたいポイントとしては、IgM抗体は感染の初期に(1週間くらいで)出現するのに対して、IgG抗体はIgM抗体の後に少し遅れて(2週間くらいで)出現してくるということです。

黒アザラシ
IgM抗体に関してのみ陽性であれば感染の初期段階、IgM抗体とIgG抗体に関して陽性であれば免疫のつきはじめている段階、IgG抗体に関してのみ陽性であれば感染の中~後期段階であるのだろうという予想が立てられるということですね。

新型コロナウイルスに感染したアカゲザルは1ヶ月で症状が改善した

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染したヒトの場合、すでに新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する抗体をもっている可能性があることから、新型コロナウイルスには再感染するのか、あるいは再感染しないのかに関しては、議論が続いています。

筆者らは、ヒトと同じ霊長類であるアカゲザルに新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を感染させた場合、回復期に二度目の感染は起きうるのかどうかを調べました。

ここでは、二度目のウイルスの暴露は、一度目のウイルス感染の28日後約1ヶ月後)に行われました。

アカゲザルに新型コロナウイルスを感染させると、ヒトと同様に、間質性肺炎(胸部X線など)やウイルスRNAの検出(鼻咽頭、肺、腸など)などが観察されました。

ヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色によって、著しく肥大した肺胞中隔と肺胞間質におけるマクロファージやリンパ球などの増加が観察されました。

さらに、肥大化した肺胞間質においてコラーゲン線維の増加(線維症)も観察されました。

加えて、免疫組織化学染色によって、スパイクタンパク質陽性細胞の位置は、肺胞上皮細胞やマクロファージの位置と重なっていました

これらのことは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)がアカゲザルにおいてもCOVID-19を発症させることを示唆しています。

一次感染後の15日目までには、これらのアカゲザルの鼻咽頭などからウイルスRNAは検出されなくなり、さらに28日目には胸部X線画像にも異常は見られなくなりました(感染から回復)。

新型コロナウイルスに一度感染したアカゲザルは二度目は感染しない?

一方、一度新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染させたアカゲザルに、二度目のウイルスの暴露(28日目)を行った場合には、これらのアカゲザルの鼻咽頭などからウイルスRNAは全く検出されませんでした。

さらに、これらの回復期に二度目の感染を行ったアカゲザルでは、胸部X線画像における異常や上述した組織学的な病変も観察されませんでした。

このことから、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に一度感染したアカゲザルは、初期の回復期の段階においては、同一のSARS-CoV-2には再感染しないということが示唆されました。

一次感染時と2回目のウイルス暴露時の違いは?

そこで筆者らは、なぜ2回目のウイルス暴露時にはアカゲザルが、初期の回復期の段階において新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に再感染しなかったのかを調べました。

2回目のウイルス暴露から14日目には、1回目のウイルス暴露から14日目と比較して、白血球や好中球の数が増加していることがわかりました。

また、2回目のウイルス暴露時には、1回目のウイルス暴露時と比較して、末梢血中CD8陽性T細胞(キラーT細胞に分化)の割合が増加していることもわかりました。

一方、リンパ節においては、CD4陽性ナイーブT細胞とメモリーBsaibouの割合が減少し、CD4陽性メモリーT細胞の割合が増加していました。

さらに、2回目のウイルス暴露から14日目には、1回目のウイルス暴露から14日目と比較して、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に特異的な抗体の抗体価は著しく増加していることがわかりました。

これらの結果は、2回目のウイルス暴露時には獲得免疫が働いてくことによって、2回目のウイルス感染が防がれたことが示唆されました。

今回の論文では、二度目のウイルスの暴露は、一度目のウイルス感染の28日後約1ヶ月後)に行われましたが、一度目のウイルス感染と二度目のウイルスの暴露の期間を長くした場合には、結果は違ってくることもあるかと思います。

最近Nature medicineに投稿された論文では、無症状患者の回復期の初期には中和抗体の量が減少するということも示されていますので、実際には、一度新型コロナウイルスに感染しても再感染するリスクは高いのかもしれないですね。

【参考文献】

Deng, W., Bao, L., Liu, J., et al. Primary exposure to SARS-CoV-2 protects against reinfection in rhesus macaques. Science (New York, NY), eabc5343(2020). https://science.sciencemag.org/content/early/2020/07/01/science.abc5343

CCライセンス:CC-BY 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/ 

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